「ユウジ歩くん早いわー」 数メートル先、チャリをひきながらユウジは自分のペースでさっさと歩いた。 遠めに飛ばした私の文句を耳に入れたユウジはだるそうに立ち止まって私を睨みつけ、 「お前が遅いんじゃボケ」と暴言を吐く。 「やって眠いねん」 「俺の方が眠いわ。お前俺を押し潰しながらぐうすか眠っとったやないかい」 「女の子は睡眠たっぷり必要やねん」 「お前みたいなんオンナノコ言わん。珍獣じゃ、珍獣」 「もっとオブラートに包んで欲しい」 「ほな3枚分くらい包んで言うで、お前みたいなん、」 「あっ、コンポタ缶並んどるやん!冬はやっぱこれやんな〜」 「聞けや!!」 前方の自販機に黄色いそれを見つけて走り寄る、 肩に掛けた鞄から財布を取り出して数枚小銭を投入した。 チャリンと金属音がして、赤いランプが点灯する。 目的の場所を人差し指でタッチすると、ガコンとコンポタ缶が自販機から吐き出された。 長袖を引っ張って、熱いそれを取り上げるとユウジが呆れたように 「これからメシやぞ」とため息をついた。 「ユウジはセッカチさんやなあ。ご飯の前にコンポタ缶飲むくらいで何やねんカルシウム不足ちゃう」 「うっさい。腹減ってんねん」 「一口あげるで」 「俺ホットの缶熱くて持たれへんねん。お前と違て繊細な人間やから」 「私かって持てへんから袖使ってんのやけど。まあ私はユウジと違って頭つかえる人間やから」 「言うようになったやないか」 「やろ?」 のろのろと歩き始めた私の隣に並ぶようにユウジがまた自転車をひき始めた (今度は、ゆっくり私に合わせて)。 (何だかんだ言いながら、文句を言えば考慮してくれるユウジが好きだ) 「やっぱ一口あげる」 「別にいらん」 「意固地やなあ」 あったかい缶の中身を一口流し込んで飲み込んだ。 口の中いっぱいに広がる冬の味にほっとしながら、私はユウジにキスをした。 |