訳のわからない男に好かれたものだ。




つまらない事を大真面目にやる、それが人から人へ感染して流行に。 そういう事に夢中になれる年頃というものが存在する。
(何でこんなくだらないことをするんだろうなあ)と私は携帯の着歴を見てため息をついた。
今、うちの学校ではワン切りが流行っている。携帯で電話かけてワンコールで切ってそれを何度も繰り返すという悪質ないたずらだ。 一回だけなら、まだかわいい。けれどメール打ってる最中にコールがかかってぶった切られると腹が立つ。 それにメールの最中ってボタンを打ってるわけだからたまにワン切りに出てしまったりする。 相手もびっくりするが私もびっくりする。
あと休み時間になるたびに物凄い数の着歴の知らせをいちいち開いて表示を消すのが面倒だ。
(最初にやり始めたやつを呪うね、私は)

と、私は教室でバカ笑いしているクラスメイトの千石を睨みつける。
事の発端はあいつだ。

ある日私の携帯におぞましい数の着歴がついた。 その相手は千石で、最初はびっくりしてすぐにかけ直し「何か用だったの!?ごめん気付かなかった!」 と大真面目に謝り大事がなかったか確認した。 けれどあの男ときたら「え、用事はないよ?強いて言うなら君の声が聞きたかった!ラッキー!」 とか何とかって。
(勿論次の瞬間電話を切った)

それを友達に話したところ、「ああ、それいい。誰かに構ってもらいたい時とかに使えるかも」 と言い出して。それが何故かじわじわと広がっていったわけである。 友達が友達にかけて、その友達が友達にかける。もはや復讐が復讐を呼ぶみたいなものだろうか。 (だって自分がやられて腹が立ったら他の人にいたずらを仕掛けてやろうという気持ちになったりするだろう)

そんなわけで、流行っているのだ。
浸透しているおかげで皆それほど苛立ったりしていないし、むしろ(またか〜)なんて思うくらい。 そう思うなら止めろよ。と思うのだけれど。
つまんない事も楽しく感じる、それが学生。うん、そうだ。

ちなみに私は参加しない。面倒だし、どちらかと言うと迷惑している。
未だに千石は私に着歴を残すし。鬱陶しい。
(用があるなら、面と向かって言いに来い)




そんなある日の夜、珍しくワン切りではない電話が千石からかかってきた。
また何かどうでもいい事なんだろうと無視していると、それは留守電メッセージが再生されるまで鳴り止まなかった。
「ピーッという発信音の後に」というアナウンスが入った後も電話は切られる事がなかった。 20秒間のメッセージ吹き込み時間を終えた後、携帯は大人しくなった。
(何だろう?)
と留守電を確認すると、無音の20秒。

「………………はあ?」

新手のいたずらだろうか。
念のためもう一度留守電を再生する。耳を澄ますとかすかに環境音が聞こえる。

「…………どういう事?」

いたずらか、何かあったのか、ぐるぐると考えた結果私は千石に電話をかけた。 しかし彼に繋がることは無く私の心に妙な焦りが生まれた。
あのバカ、もしかして何か事件に巻き込まれたんじゃないだろうか。 いつも女の子のお尻ばかりおいかけているからこんな事になるんだ。 それに変ないたずらも。 誰かに報復されて手酷い目に合わされているんじゃないだろうね。

もんもんと、私は何度も何度も千石に電話をかけた。
しかし繋がる事はなく、千石から電話がかかってくることもなく。 眠れない夜が明けて酷いクマを作った私はハラハラと学校へ行った。
(ああ来ない、まだ来ない)とヤツを待っていると遅刻ギリギリで教室に入ってくるオレンジ頭。

ガッターンという派手な音をたてて立ち上がり千石の元へ向かう。

「あっ、あんたねえ…」
「う、うわっ、どうしたのちゃん、えっ、なに、なについに俺の魅力に気付いた?」
「電話!昨日の夜の電話!!!」

驚いたりデレデレしたり忙しい千石の肩を揺さぶる。
しかし彼は「何の事?」とケロッとした顔で私を見る。

「めずらしく留守電まで残すから!何かと、思って!」
「えっ?俺電話なんてかけてないよ??」
「はあ!?ちょっと、携帯確認しなさいよ!!」

私の気迫に押されて急いで携帯を確認する千石は、パカリと折りたたみのそれを開いて口をぽかんと開けた。

「えっ、ええええ何これ!何で電話くれたの!?告白!?ちょっ、たんま、そういうのは俺から、」
「違う!あんたがかけてきたから私はかけただけで、」
「…あれ、本当だ。俺かけてる…」
「………でしょ?」
「……………この時間、寝てた」
「は?」
「……ごめん、寝ながらボタン押しちゃったみたい。ちゃんの番号ショートカットにしてるから」

そんなオチかよ。
いや、寝ずに一通り考えた無音の留守電の原因の中には確かにそんなオチもあった。
あっただけに、むかつく。

「………はあ…」
「ほんっとめんご!でも嬉しいなあ、ちゃんの着歴!」
「バカじゃないの。私はあんたが寝てる部屋の環境音を20秒も聞かされて腹が立ってるんだけど」
「うわ、それ恥ずかしい。現物見られるより恥ずかしい」
「悔しいからメッセージ保存してやる!」
「ああっ!止めて〜〜〜〜!」

顔を両手で覆ってかわいこぶりながら千石は笑った。
何はともあれ、何もなくてよかった(なんてほっとしている自分がくやしい)。

「ねえ、またかけてよ。そしたら絶対出るから!」
「もうかけない」
「ええー俺がかけても出ないじゃん」
「あんたのはただのイタ電でしょ」
「真面目な話がしたいときはどうすればいいのさ」
「直接言いなさいよ」
「うーん、じゃあ」

「好きです、お付き合いしてください!」と教室中に響き渡る大声で千石はそう言った。
「意味がわかりません!」と私も大声で言い返してやった。


‘Coz yor wrongheaded
(素直じゃないから)


「あんたは迷惑な伏線の、張りすぎ(おかげで意識はしていたけれど)」