初めて見た瞬間、自分が恋に落ちたと確信した。
一目ぼれというものがこの世に存在するのだと、中学一年の春、知った。
だが、その頃一途に猛烈アタック出来るような勇者ではなかった俺は、回りくどく 気にしてもらおう作戦で女の子を口説きまくり伝説となった。 じゃなくて、結局一番大好きな本命のあの子には、おはようの声すらかける事が出来ないまま、 中学校を卒業しそう…なんて状況に追い込まれた。

要するに、馬鹿な俺は恋のタイミングを完璧に見失ったわけだ。



幼い頃からルックスと幸運にだけは自信があった。 なんとナルシスト、人に言ったらそう返ってくるわけだが、俺はそれなりにそんな自分に満足している。 中学に入ってテニスを始めたら、なんとテニスまで上手い。
俺ってもしかして天才かも?
そんな事を思いながら生きてきた。実際女の子だって俺にキャーキャー言ってくれるし、 中には本気で俺を好きになってくれる子もいる。
(だけどゴメンネ、俺、本当は3年も片思いしてるコがいるんだ!)
しかしこのナルシストさが当時俺にもたらしたのは、女の子はみんな俺がスキ!だから 俺が他のコにちょっかい出したらぜーーったい気になる! なんて打算である。
今更誰かにこんなこと知れたら、この世の女の子全部大好き!なんていってる千石が、マジありえねー なんて言ってくるだろうが真実だ。



「マジなんだよ…ねえ、どうしたらいいかなあ…南クン…」
「…どうしようもないのがお前の頭だから仕方ないよなあ…」
「…傷ついた。俺もう死ぬしかない」
「大袈裟な奴だなあ…ていうか正面から告白してみりゃいいじゃねーか」
「それが出来ないから、今、こうして、悩んでるんじゃないかーーー!」

放課後、南の教室に押し掛けてこうしてぐだぐだ愚痴って早2時間。
1月の終わりとなると、放課後の暖房の切れた教室は肌寒い。が、なんとこの南の教室、 俺の大好きなちゃんの教室でもあるのだ。

「大体南ずるいんだよ!なんでちゃんと同じクラスなの!?しかも3年間!俺信じらんない! 俺ラッキー千石じゃないじゃんアンラッキー千石じゃん! ていうかラッキー南じゃん!!!!」
「あのなあ…」

ちらっと南が時計を見たのを、俺は見逃さなかった。
南に何の約束があろうと見たいテレビがあろうとトイレに行きたかろうと許さない。帰さない。 この問題の解決策を見つけるまでは!

「俺はどうしてもバレンタインにチョコが欲しい」
「はあ…バレンタインなんか相手にその気がないとそれは
「だから!なんとかしてよ!!」
「いや、だから本人の気持ちの
「ねえ南!俺ってそんなに魅力ない!?輝いてない!!?」
「いや、俺に聞かれ
「俺ほんと全然軽い奴じゃないんだよマジほんとはかなり重いんだよ嫉妬深いしこれほんと」
「残念だが普段のお前はどこからみても軽
「実はファーストキスだってまだなんだ!もちろんエッチなんて言語道断、 俺って健全たる中学3年としてかなり健気に一途に生きてると思わない!? ほんとこれ全部、
…」
「そう、ちゃんのため!って、え?」

青ざめる南の顔を見て、それから南の視線の先を見て、それから、ドアを開けて立ち尽くす人物と バッチリ目が合って。俺の脳みそ一瞬爆発したんじゃないかと思った。

「ご、ごめんなさい何か、き、聞いちゃいけない事を聞いてしまったような、あっ、いや、 何も聞いてないから…!どうぞ続けてください!ほんと、気にしないで、私、わ、忘れ物をとりに きただけだから!」

場の空気が凍りついたように寒い。いや、実際寒い。
ぎこちなく歩きだした彼女が自分の机へと向かいその中からプリントを一枚取り出す一挙一動を ただ口を開けたまま見つめることしか出来なかった。
南が小声で、可哀想に顔真っ赤だぞ、と俺を攻めるので、どうにも居た堪れない気持ちになった。

「じゃ、じゃあまたね、南くん!と千石くん!」
「待ってーーーーーーー待った待った待った!」
「わーーーーーほんと言いません、誰にも言いません千石くんの秘密は誰にも言わないです!!」
「違うってそこじゃないって!!俺が実は童貞で初キッスの味も知らないとかそこは重要じゃなくて!!」
「千石!何度も声に出してそういう事言うな!!」
「気にして欲しいのはそれを保ってるのはが初めてであって欲しいからなんだって!!キスもエッチもちゃんとしたいの!!」
「馬鹿か!!!怯えさせてどうするんだよ!引かれてる、ドン引きされてるから!」
「痛ッ!南がぶった…うう…痛い、痛いよー…」
「正気戻れ馬鹿千石!ごめんな、こいつ今日おかしいんだ。頭おかしいのはいつも何だが、それ以上に 、あー…なんか、爆発してるんだ。だから気にしないでくれ!」
「あ、う、うん、絶対言わないから!うん!」
「ああっ!待ってよちゃーーーーーーん!」


次の日から、彼女の視線が痛々しく感じられるようになったのは言うまでもない。
が、それほどに俺を意識してくれているんだと思うと嬉しくなった。

「これってかなり脈アリじゃない?どうしよう、バレンタイン…初チュウの予感?」
「…お前の頭がおめでたくて俺は助かるよ…そうだな、貰えるといいな……」


あの日以来、俺は猛烈に彼女にアタックをかますことにした。


Viewin' through rose-colored glasses(楽観的すぎる人)