は誰なの?」
「んー…南くんかな。何か、同じ匂いがするから」
「ぶっ!ちょっとそれどんな理由よ〜確かにあんたは地味だけど」
「なにそれーもうちょっと気の利いたコメントしてよ」
「ごめんごめん。でも確かにあんたと千石は絶対無いわ」
「私もそう思う」

戸にかけた手が、一瞬にして止まった。(止まってくれてよかった。) 放課後なのにちゃんを見つけてラッキーなんて思ったさっきの自分を殴り倒したい。 知らないでいた方が幸せなこともあるってこういうことなんだなあ。 ああ、ジーザス、なんてアンラッキー。



次の朝、非常に気まずく、かつ重たい気持ちで教室のドアを開けた。昨日 あんなことがあったにもかかわらず相変わらず最初に目に飛び込んでくるのが ちゃんの姿である事が憎い。 なんて健気なんだ自分。ていうか俺、こういう性格だったんだ。
うん、俺っては実はちゃんが一年の頃からずっと好きなわけである。 一年の頃彼女と同じクラスになって、二年も三年も、超ラッキーで一緒になって。 席替えのたびに隣のポジションをゲットできて、これって俺達運命っしょ! なんて言ったらそうだねなんて言ってくれるもんだから これは彼女、俺の事好きなんじゃないの両思いじゃん! なんて思って生きてきたわけなんだけども。
昨日の放課後あんな会話を聞いてしまったらそんな能天気でもいられない。 ちゃん、南の事が好きだったのか…てか俺は絶対無いってどういうことだよショックすぎる。 それって挽回のチャンスもないじゃないか。 ていうか思えば俺、バレンタインにチョコもらったことない、ないぞ。 くれないの?って毎年俺から言ってた気がする。 その上『いっぱい貰ってるのにまだ足りないんだ?甘いもの好きだね〜千石くん』なんて あしらわれている。 なんて寂しい男だ俺は。
気付くとぽろぽろいっぱいそういう経験が出てくる。 ていうか大体、三年も一緒にいるのに『千石くん』呼び、どうよ。 もっと崩して呼ぼうよ!俺なんか名前で呼んでるのに。 あれ、これってもしかして俺だけから回ってない?

「おはよう千石くん。どうしたの?何か元気ないね」
「ううっ(ああ、早速千石くん呼び攻撃が!気付くと一層切ないぞ!)…おはようちゃん…」
「なんか…重症だね…」
「うん…昨日2年と半年くらいの俺の恋の炎が消化されちゃってね…うん…」
「えっ、一人の彼女とそんなに続いてたの?」

酷い追い討ちである。(俺ってそんなに軽く見えるのか)

「片思いだよ片思い!でも相手に好きな人がいるってわかったんだよ。俺じゃないの…」
「うわあ…それは……きついね…うん…うわあ…なんか…涙出そう…」

その相手はキミなんだよ。俺も今にも泣きそうだよ。

「って何でちゃんがそんな泣きそうなのさー俺そんなに惨めでかっこわるいかな!」
「いやいや、ちょっともうほんとあーもう涙出てきたばかみたい」
「えっ、ちょ、えええ泣かないで俺が泣かせたみたいだから!」
「うん。ごめん。でも千石くんからのもらい泣きだからみたいじゃなくてそうだよ」
「まじで!?うわ、女の子泣かせるなんてサイテーだよー」
「そうだよ最低だよ。ほんと…ちょっと今日話しかけないで欲しいくらいだよ」
「ええええなっなんでえええ」
「わかんない」

本当に泣いているからか、髪の毛を顔を隠すように梳きながら ちゃんは机に顔を伏せてしまった。 何と言葉をかけたらいいかわからずに、俺はおろおろしてるだけだった。

女の子の気持ちってこんなにわかんないもんなんだ。(好きな子なら、なおさらだ)
ていうか、泣きたいのはこっちなのに。





しかし、あの時教室で彼女が友達とやりとりしていた会話の内容が、 自分の趣味に付き合ってもらうなら誰がいいか(ちなみにテニス部限定で)という 事だと知った俺は、その時初めて彼女の涙の理由を知るわけで。 何だか変な笑いと同時に変な涙が溢れてきたのである。
(彼女の趣味は読書だからな。成程それなら納得できる。) でも、キミと一緒だったら読書だって頑張るから、お願いキミを泣かせた俺をゆるして。


Question of the 64 thousant dollars(非常に答えるのが難しい重要問題)