4月最初の登校日、クラス分けをざっと見ると2年間同じクラスだった友達と別々のクラスだった。 「残念やったね」と苦笑いしながら彼女と別れて各々の教室へと向かう(ついてない)。
だって、ユウジとも別のクラスになってしまった。 しかもユウジは8組!せめて同じ階だったら狙わずともすれ違う事が出来たかもしれないのに、 彼は2階で私のクラスは1階にある2組だった。
(あーあ)と肩をがっくり落として教室の扉に手をかけると、 廊下から「!」と大きな声が私を呼んだ。
どこかで聞いた事があるようで、でもどうも聞き覚えのないようなその声に不審がりながら振り向くと、 まず目に入ったのが眩しい髪色だった。 いくら校則がゆるくたってきんきんに色を抜いてるヤツって珍しい、 きっと余程ぶっ飛んでる奴に違いないと瞬間思ったが、その顔には見覚えがあった。

「あ、れ…?もしかして…け、謙也?」
「おう。久々やな〜俺らおんなしクラスやで」
「えっ、ほんまに?私名字知らんかったからチェックしてへんかった」

と、言うのは若干嘘で、正直存在すら忘れかけていたしユウジにしか興味が無かったのでチェックしていなかった、 というのが正しい。 でもまあ、名字は知らないし名前の漢字も知らないしで、 たくさんの生徒名が書かれた表から彼の存在を汲み取るのは私にとって困難だったのだ。

「何や薄情やなあ。俺、ヨッシャアて思わず表の前でガッツポーズまでとったっちゅうに」
「どんだけ嬉しいねん!」
「俺ら同じ匂いすると思うねん。結構音楽の趣味似とったしな。 俺の周り、誰も俺のトークついて来れる奴おらんねん」
「ああ、そういえばお勧めしてもらったん聞いたでー、そんなんも忘れとったけど良かった!…ような気がする」
「おい!」

謙也がにこにこ話すので、何でか私はドキドキした。
きっとこんな風にノリ良く話されるのには慣れていないからだ。 ユウジはもっとツンツンしとって、私の話も聞いてるのか聞いてないのかわかんないくらいで、 本当に要所要所適当な返事をするくらいで。
でもだからこそ、たまに笑ってくれるその一瞬が私はとても嬉しかった。

でも謙也は違う。
私に対して心を開いてくれているのが伝わってくる。
(なんだか、懐かしくて心地いい)
それは、以前私が始めて出来た親友に抱いた気持ちとよく似ていた(のかもしれない)。 だからちょっとだけ目頭が熱くなって、一瞬だけきゅっと唇を噛み締めた。
そんな些細な瞬間すら感じ取ってしまうのか、謙也が真剣な顔で「どないしたん?」 と聞いてきて私は苦笑いした。

「なんでも。それより謙也、頭めっちゃ派手んなったなあ。髪も切ったんや」
が言うたんやろ、こっちのが似合うて」
「本気にすると思わへんやん。しかも言うたの初対面の人間やで」
「冗談で言うたんかい」
「ちゃうよ、ちゃんと似合ってるし、やっぱり私の見立て間違ってへんかったわ」

朝の光が差し込む廊下で、人工的な金髪がきらきらと光っていて思わず手を伸ばした。 短くはねている(やっぱりちょっとねこっ毛だったんだなあ)ひとふさを指先で軽く擦ると、 謙也は目を細めて「ぎっしぎしやろ」と微笑んだ。

「ハイブリーチしただけやから色もそない綺麗やないし」
「そんな事あらへんて。私にしてみたら随分大人っぽいで、まあ、背伸びした大人やけど」
「一言余計や」
「ごめんごめん。でも、背も割と高かったんやな。座ってて気つかへんかったけど」

並んで雑誌を読んでる時は、それほど威圧感を感じなかったけれど今はちょっぴり見上げなければならなかった。 ユウジは猫背なところがあるし、そんなに高いなあとは思った事がなかったので、 男の子をこうやって意識しながら見上げるのは初めてだった。
(何か、へんな感じ)

「せやな、でもめきめき伸びたん最近やし、あの頃はまだそんな高くなかったで」
「そうなん?男の子の成長っておっかないなあ」
「まあなあ、今も体中キシキシ言うわ」
「こわっ」

「お二人さん、そんなところで立ち話してると迷惑やで」

突然第三者に割られて入ってびくりとそちらに目をやると、 今度はプラチナブロンドの男の子が立っていて私は呆然とした。 今日だけでぶっ飛んでる人に二人も会ってしまった。 しかも、「うおっ、びびったー白石かいな」という謙也の反応からしてきっと知り合いなのだろう。
類は友を呼ぶと言うが、成る程初対面の人間に脱色と散髪を勧められただけが今の髪型に至った理由ではないのだろう。
私はその事を考えた時、何でか(なんだあ)と残念な気持ちになった。

それにしても、同じクラスに金銀揃ってるって何だかおめでたい。
それと同時に、きっと彼らがうちのクラスのツートップになっていくような気がして私は笑った。
「ごめんなさい」と言って入り口から退くと、 銀髪の彼は教室に入るでも無く私の顔をじっと見た後ふっと微笑んだ。

さんやろ、よろしくな。白石蔵ノ介や」
「ええ?どっかで会った事あったっけ?」
「そんな奇怪な顔せんでも、初対面やで」
「やっぱり?」
「ただ、っぽい顔しとったからわかっただけや」
「??」
「白石」
「わかってるて。ほなお先に」

ガラリと扉を開けて入っていく白石くんの髪が、やはりきらきらと流れていて目を惹いた。 けれど私は、どこか複雑な表情の謙也の髪の方が好きだなあと思ったのだった。
あたたかみがあって、雰囲気にあってる。

さっき私は、大人っぽく見えると言ったけれどそれは嘘じゃなかった。 背が伸びただけじゃない、何だか顔つきも大人びたと思う。 第一印象には顔の印象がどことなく幼い感じがしていたけれど、今は違う。 なんだか目元がすっとして優しくなった気がする。
(元から素材がよかったんだろうな、男の子はあっという間に成長するし)



そう考えて、私は急にユウジに会いたくなった。
春休みの間に、彼は私の知らない大人になってしまっただろうか。
それだけが不安だった。

ペロキサイドブロンド


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