食後のぽかぽかとあったかい陽気。眠くなるのはすごくわかる。 けれど次にも授業は控えているわけで。 一つため息をついて立ち上がる、空に向かって伸びをすれば少しだけやる気が増した気がした。

「英二くん、そろそろ起きないと」

壁にもたれて眠る英二くんの前でしゃがんで肩を叩いてみる。 だけど一向に起きる気配なんてない。 そりゃ、テニス部は今朝も厳しい朝練をしていたけれど。 ここで起きてもらわないと、授業さぼって大目玉くらうのは英二くんである。
そもそも、お昼ご飯を食べ終わってうたたね始めた英二くんをそのまま寝かせてしまったのが 間違いだったかもしれない。 だってこんな気持ちよさそうな寝顔見せられたら、誰だって起こしたら可哀想って思ってしまう。
(でも、ここは心を鬼にして…)

「英二くん、」
「うにゃー」

(うにゃーって英二くん、まるで猫みたいだよそれ)
微笑ましくって思わずくすくすと声に出して笑ってしまった。 眉間に皺を寄せてころんと蹲る様がほんとうに可愛くて、ずっと見ていたい気分になる。

「授業始まっちゃうよ。みんなももう行っちゃったし」

見回すと、先ほどまで屋上でおべんとうびらきをしていた面々は既に退散したようで。 そりゃそうだ、だって予鈴が鳴ったのだから。

「私も行っちゃうよー行っちゃうよー」

言いながら立ち上がって、おもむろに踵を返すと次の瞬間視界がぐらりと歪んだ。
何が起きたかわからないまま目を白黒させているうちに、 体中のあちこちから痛みがじわじわ襲ってきて、自分の身に起こったことを理解した。

「いっ、痛いーーーちょっ、なに、」
が俺をおいてこうなんて思うからいけないんだよー」

うつぶせに地面と仲良しになっていた自分。 準備なしにコンクリに叩きつけられたむき出しの肌は、ちょっとすれたりしたのか ひりひりと熱を持ってきている。 思わずついた両手のひらは顔をまもってくれたけど、勢い良すぎてかなり痛い。
違和感のある足元を振り返れば、 右足に悪魔の手がすがり付いているではないか。

「だっ、だからってこんな酷いことしなくてもいいでしょ!」
「このくらい軽く一回転でかわすと思ったんだよ〜」
「それは英二くんしかできないよ!」
「ご、ごめんって〜そんなに怒らないで、ね、

茶目っ気たっぷりにウインクしてみせた英二くんは、そのままぺろっと頬を舐めてきた。 ぴんぴんはねた髪がくすぐったく肌を撫でて、まるで猫とじゃれあってるみたいな そんな感覚に陥る。



遠くから本鈴の音が聞こえてきたけど、もう立ち上がる気すら起きなかった。


Like a kitten to milk(仔猫のように/仔猫が擦り寄ってくる様)