「お疲れ」 「おう」 ラリーを終えてベンチに戻ると、タオルとドリンクを持ったが笑いながらそれを手渡してくれた。 ありがたく受け取って腰を下ろすと、 未だ他のメンバーの分のタオルとドリンクを持ったままの彼女が「ねえ」と声を掛けてきた。 「究極の選択」 「は?何や急に」 「エビフライとハンバーグ、どっち」 「はあ?いや、今の気分やったらハンバーグやなあ」 「ハンバーガーとピザ」 「あー、ハンバーガーやな」 「チーズケーキとショートケーキ」 「チーズ…ちゅうか止めえ、食いたなってきてもうた」 わかっているのかいないのか、「確かに」とどこを見ているのかわからない顔では呟いた。 「じゃあな、金ちゃんと財前が崖から落っこちそうにでもなっとって、 どっちか一人しか助けられんてなったらどうする?」 (それは確かに、究極の選択だ)なんて思いながら、 食べ物と人とで随分温度差のある質問がきたなあと彼女の突拍子の無さに笑う。 「難しいけどなあ、ここは財前やな」 「なんで?」 「金ちゃんは自力で何とか出来そうやからな。力ごっつうあるし、幸運にも恵まれとる。 財前はほっといたらすぐ諦めて手離してしまいそうやから」 「ああ、確かに」 「やろ?」 「なら、私と財前やったら?」 こういう質問は、ずるいと思う。 究極の選択なんて言ってるが結局は人物に順位をつけているだけじゃないか。 チャートと同じだ、最終的に残った人物が一番大切にしたい人なんて結果になる。 まあ単純に考えれば、の話。 ただし、その人と為りがわかっていれば話は別だ。優先すべき順位は簡単に変わる。 質問自体ずるいと思うが、正直こういう類の質問に意味など無いと俺は思う。 「やっぱ財前や」 「ふうん」 「で、間に合ったらも助けたるけど」 「間に合わんかったら?」 「一緒に落ちたるわ」 「何それ」 「財前落としてハッピーエンドにはなれへんっちゅうこと」 タオルで汗を拭いながらちらりとを見上げると、やはり彼女はどこかを見ていた。 コートの上では入れ替わりで入った部員たちが荒い息を吐きながら動き回っていて、 はその上を走るボールを追っているのだろうかとぼんやり思った。 ドリンクの中身を少しだけ口に流し込むと、「謙也らしい答えでよかった」という声が振ってきた。 「何や、ドボンでもあったんか」 「んーん。暇つぶしの質問やしそんなん無いで」 「あーやっぱし。そういう質問は大体答え無いもんやろ」 「まあね。でも嬉しい。選ばれてないようで、私は究極越えて謙也に選ばれてるって事やろ?」 (ああ、彼女的には究極の選択肢の中に無かったものを選んだ俺は、究極を越えてるのか) の横顔が綺麗に笑ったので、しばらく見とれながら何だか妙に恥ずかしい気持ちになった。 |