ぽかぽかと、暑くもなく寒くもなく心地のいい日だった。 外で散歩したりショッピングしたり、遊園地に行くにもいい日だった。 いや、本来ならその予定だった。 (の、だけれど) 「あた、」 ぼやーっとしていると横からシャーペンで額を叩かれた。その衝撃でハッと現実に戻ってくる。 額をさすりながら隣を見ると、が怒った顔で俺を見ていた。 「真面目にやりや」 「…しゃーないやろ、心はもうジェットコースターの上やねんもん」 「やから、早く終わったら遊びに行けたのに」 「もうやる気でーへん」 「誰のせいで…」 「すまんて」 夏休みの終わり、最後にパーッとデートしようと誘ったのは俺の方だった。 の、だけれど宿題が全く終わっていないのが誰伝かでに伝わって今に至る。 真面目な彼女は、宿題が終わるまでどこにも行かんからと家にやってきて俺を机に拘束した。 (あれや、絶対財前あたりがちくったんや) (くそ、覚えとけ) 「、」 「なに」 「宿題っちゅうもんはな、夏休みが終わってからやるもんなんやで」 「謙也は頭いいのに要領悪いな」 「あー…」 「ほら、別に勉強出来んわけちゃうんやからさっさと問題解きや」 そういって彼女は俺の目の前のテキストを一枚捲った。 さして興味のわかない問いを眺めてシャーペンを走らせ、そしてため息をつく。 ちらりと隣の彼女を盗み見ると、俺が先ほどまでやっていた数学のプリントに赤ペンを入れていた。 「…はあ…」 「ため息つくと幸せ逃げるで」 「アカン…上瞼と下瞼が仲よおなってきた…」 「…私、帰るで」 「嫌やあ、それは嫌やけど夏休み最後の日にこないなっとるんも嫌やあ」 「自業自得って言うねん」 「うあー」 ぐでっとテキストの上に上体を崩して目を瞑る。 すんと鼻を鳴らしながら今日のデートプランを思い巡らせた。 しばらくたった後、無言になっていた彼女がトントンと俺の肩を叩き、 なんだろうかまた怒られるんだろうかと若干びくびくしながら起き上がると、 ほっぺたにつんと人差し指が当たる。 「うわ、古いな」 「でも引っかかったやんか」 (それもそうやな)と笑うと、次の瞬間唇にやわらかいものが触れた。 至近距離に彼女の顔があって、(まつげ、長いなあ)とか考えた。 「次、眠くなったらまたキスすんで」 「…それ、脅しになってへんで」 「謙也のバカ、私やって我慢してるの気付いてや」 ぷい、と下を向いて再びテキストに赤ペンを走らせる彼女に、 俺はどうしようもなく申し訳ない気持ちになると共に今すぐ抱きしめたい衝動に駆られた。 そんな事をしたら俺のためを思って宿題を手伝ってくれているの気持ちを無碍にしてしまうことになるから、 ぐっと我慢したのだけれど。 隣の彼女の体温をちいさく感じながら、俺は真剣にテキストに向き合う事にした。 |