「ほんでな、オサムちゃん白石にめちゃめちゃ怒られてな、ほんま傑作やって、あれ?」

隣を歩いていたはずのにアイコンタクトを図ろうとちらりと横目をそちらに向けると、 いるはずの人物が見当たらず一瞬パニックになる。
きょろきょろと見回して、バッと後ろを振り向くと十数メートル彼方で彼女は立ち止まっていた。
内心(なんでやねん!)と突っ込みつつダッシュで彼女の元に駆け寄る。

「ちょ、、何しとん!俺めっちゃ独り言ベラベラ喋ってもうたやないかい!恥ずかしい!」
「あ、ごめん。このマグカップちょっと可愛えなあと思て」
「見たいなら待って、なり何なり言えや。びっくりするやろ」
「うん、ごめん。ちょっとだけのつもりやったんやけど」

「へへ」と照れ笑いする彼女にウッとなる。
所詮惚れたもんの弱みというか、結局彼女に対しては何もかも許してしまえる自分が憎い。 確かに商店街は色んな店が並んでいて目移りするし、立ち止まってしまいたくなるのもわかる。
はあ、と息を吐いて彼女の手元を見ると、先ほどアイスクリームショップで買ったチョコミントが溶けてコーンを伝っていた (もう、せやから食べ歩きせんと座ろうか、言うたのに)。

、アイス」
「んん?」
「アカン垂れる、垂れる!」
「うわー、ほんまや!」

彼女がアイスの側面を確認しようと持ち上げて、それが丁度目の前にきたのでたれてきていたそこにざらりと舌を這わせた。 ぬるくなったチョコミントはあんまりおいしくない(それはアイスクリームすべてにおいて言える事だけれど)。

「お前ぼーっとしすぎやで。ほんま手かかるなあ」
「謙也くんがおるとますます油断してまうねんなあ、」
「さ、さよか。ま、頼られるんは嬉しいな!」

普段、周りから『謙也=手がかかる、アホ、どっか抜けてる』とか(不本意だが)思われてる分、 彼女の存在が特別で眩しく感じてしまう。
しかし断じて、自分が優位に立てるからとか優越感のために彼女と付き合っているわけではない。
好きになった子がたまたまこういう性格だっただけだ。

「ところでまだ見たいんか?この店」
「ううん、もうええよ」
「買わんでええの?」
「うん。買うまで欲しくはないなあ」
「そか」




その、ほんの数分後の事だ。
また、おしゃべりに夢中になって隣を見たらこれがデジャヴ。
今度は迷いなく後ろを振り向くと、数十歩離れた距離で彼女がイベントのポスターを見つめていた。

!またかお前!」
「うわ、びっくりした!」
「びっくりしたん俺の方やって、ああーッ、またアイス!」
「わあ、ほんまや、今日暑いなあ溶けるのはやい」
「ちゃう、の食べるスピードが遅いだけや」
「そっかあ」

そう言って彼女は垂れたアイスのそれを舐め取って、カリッと一口コーンを食べた。
「とりあえず食べてまえやそれ」と促すと、彼女はポスターを見たまま「うん」と言ってゆっくりとチョコミントを食べ続けた。 その横で、時折視界の端に彼女の赤い舌を捉えながら他愛ない話をした。

「おいしかったー」
「良かったな」
「うん。行こうか」
「そやな。で、は俺の前歩き」
「え、なんで?」
「また居なくなったら困るわ」

こん、と軽く彼女の頭を叩くと彼女は笑いながら「せやったら手繋いで歩こうや」と言った。
(ああ、確かに)
なんで思い浮かばなかったんだろう、それが一番いい方法じゃないか。

「せやな!」
「せやろー?」

そう言って笑いながら、握手をするときのようにお互い片手を出し合って指を絡めた。
(最初からこうしてれば、良かったな)


晩夏


これね、私がよくやるんですよね!べらべら喋ってたらね、隣の人居ないっていう。
どっちが悪いとかじゃなく、どっちのタイミングもおかしい。
でもね、べらべら喋ってた方の恥ずかしさって凄いんだぜ!