初めから、格好付けすぎやったんがアカンかったんと思う (せやかて警戒されんようにて他人よりも慎重になとった)。
今更どんな風にスキンシップはかったらええかとか、そんなんで悩んどる自分(だっさ)。


(I can't take my eyes off of you)


「謙也ァ、あんま物欲しそうな顔で見るんやない。見っとも無いで」

白石(後ろ)の席に肩肘をついて、クラスメイトであり自分の可愛い彼女であるの事をじっと見ていた。 そんなつもりはなかったのだけれど、白石曰く『ヨダレ垂らしそうな顔』になっていたらしい。
「うあ、マジか」と言って自分の顔をペタペタと触って修正する。

「(キリッ)どや、俺イケとる?」
「………アカンな、そもそも素材が」
「………お前に聞いたんが間違いやったな」
「嘘や嘘。格好ええなあ謙也クン」
「何が嘘やねん、そっちが嘘やろ」

ぶすっとした態度を取ると、白石は「まあまあ」と笑った。
その時、の方から「わあ!」という声が聞こえてまた振り返ると、 友達に抱きつかれたりくすぐられて笑っている彼女が目に入る。

「謙也」
「………わーかっとるわ!」
「仲間に入れてもらえばええやんか意地っ張りやなあ」
「そ、そない簡単ちゃうわ」
「謙也のキャラならいけると思うで、普通に。ああ、自分下心ありやからアカンの?」

的確につかれて俺はたじろいだ。
そう、さっきから何を物欲しそうな顔で白石に注意されていたかと言うととクラスメイトのスキンシップの事である。 彼女は所謂いじられキャラというか可愛がられるタイプのキャラであり、 休み時間はしょっちゅう誰かに(もちろん女子だが)抱きつかれていたりする。 ほっぺたを抓られたり、わき腹をくすぐられたり、頭を撫でられたり。
(羨ましい!)

彼氏という立場的には、それ以上の事もきっと許されるんだろうが生憎俺たちはまだピュアな関係だ。
それどころか手も2、3度くらいしか繋いだ事がない。
彼女が特別にバリアを張っているわけではないけれど、 俺はどうしてもに対して素直になる事が出来なかった。
元々俺の片恋で、ちょっとずつちょっとずつ彼女に近寄って告白してオッケーもらって以来、 何か格好悪いヘマせんようにとか彼女の前ではクールでおりたいとか、 自分の中で作り上げた勝手な『彼女の理想の彼氏』になろうと努力した結果が今である。

(本来、デレデレな男なんだ俺は)
でもそのデレデレな部分を彼女の前に晒した時、彼女は失望するのではないかというところが怖い。
さっき白石にも言われたが、確かに俺のキャラだったら彼女に対して何らかの見えるところでのスキンシップをはかったところで、 クラスメイトは不思議に思わないかもしれない。
でも、うん(下心が確かにある)(から、)。

彼女に抱きつくの友達を、脳内で自分に置き換えてみたりする。

「謙也がここまで奥手やったとはなあ」
「うっさい」
「ちょっと手伝ったろか?」
「はあ?」
「まあまあ、恋愛においてもパーフェクトな俺にまかせとき」

白石はニヤリと嫌な笑みを湛えて俺を見た。
背筋を嫌な汗が伝っていったけれど、俺は若干の期待を胸に「授業始めるぞー」という先生の声を聞いたのだった。





(手伝うって、何を手伝うつもりなんや)
放課後俺がに「今日帰りやけど…」と声をかけ、「あ、うん待ってる!」と可愛い返事を貰った時は、 白石はただ遠くでにこにこしているだけだった。 もしかしてこのタイミングで何か仕掛けてくんのかなとちょっと身構えていた俺は多少気が抜けた。
部活中ももんもんしていて、それでやってきた帰りの事。

「さ、帰ろか謙也」

さっさと着替えを終えた白石が鞄を背負って俺に声をかける。
俺はまだシャツのボタンを留めているところで、「は?」と顔を顰めた。

「いや、俺と帰るで」
「わかっとるて。せやから、ちゃんと謙也が合流するまで俺と帰ろか」
「………は?」
「は?は?てやっぱアホやな謙也は。ほら、ちゃっちゃとしい」

訳もわからず混乱する俺のボタンを白石は勝手に留めて(母ちゃんか)、俺の鞄を担いで勝手に部室から出て行った。 ポカンと立ち尽くす俺の尻に、ゲシッと誰かが蹴りを入れてきて「何やねん!」と振り返るとそれは財前だった。

「先輩、だっさいっすわ」

(後輩にまでバカにされるて、どうなん)
仕方無しに白石の後を追いかけて昇降口に向かうとが白石と楽しそうに、笑っていた。

(あ、今なんや、胸の奥がチクッてした)(て、俺乙女かいな)
しかし実際、白石と並ぶ彼女は可愛いしお似合いだなと思ってしまった。 白石だったら彼女とうまくスキンシップして愛を育んでいけるんだろうな、とか。

しばらくもやもやと、イライラと戦って格好いい顔を作ろうと努力しているとが俺に気付いて手を振った。 釣られて白石も振り返る(腹立つくらい、いい顔で、笑いながら)

「遅いで謙也〜、な〜」
「ね〜」

(何やねん、その息ぴったしな感じ、腹立つわ)

ちゃん、待ちくたびれてほっぺ伸びてもうたって」

(は?)と思った束の間、白石が彼女を抱きすくめるようにの後ろにまわってほっぺたを両サイドから軽くひっぱった。
「ふぇー、どうひゅうほとなん」と笑うがちょっと照れたように頬を染めたので、腹が立った。
(俺かって、触ったこと、ない)
(ちゅうか、俺の彼女やのに!)

「何すんねん!」
「わ、」

カッとなって、ぐいっとの腕を掴んで引き寄せた。
柔らかいからだが、ぐっと俺の身体に密着して熱が篭る。

「おお、ラブラブやな!」
「うるさい、帰れ白石のアホんだら、に触んなこのタラシ」
「ひっどいなあ謙也。まあええけど、ほなら先帰るわ。ちゃん、また明日な」
「う、うん!ばいばい!」

腕の中に収まっていた腕をもぞもぞと密着した体の間から出したは、白石に向かって手を振った。 それすらも何だか嫌で(俺、独占欲も強かったんやな)、 「あいつには振らんでええねん」とその細い指先を絡め取った。

「…謙也くん、何か怒っとる?私、何かしてもうたかな…ごめんなさい、」
「ば、っ、ちゃう、スマン格好悪いな俺」
「何が?」
「いや、その、あれや。白石に触られとるのが嫌やっただけや」
「ええ?私、ああいうの慣れとったから、謙也くんが嫌なら今度から皆にやめてって言うけど」
「ああ、そうやのうて、ちゃうねん、普段のはええねん、白石がな、アカンかってん」
「………?」
「嫉妬や」

小首をかしげていたの顔がボッと赤くなって、その顔を俺の胸に押し付けてきた(ごっつ、かわええ)。
それからおずおずと小さな手が、俺の背中にまわってシャツにくしゃりと皺をつくる。

「謙也くん、こういう事してくれんから冷めてんのかと思っとった」
「ちっ、ちが、逆や逆!何や自分で格好つけすぎてどう接したらええかわからんようなってもうててん」
「謙也くんやったら何でも格好ええよ」

(う、わ、)
たまらなく愛しさがこみ上げて、俺は力いっぱいに彼女を抱きしめた。
さらさらの髪の毛に頬をくっつけて、摺り寄せる(今ならシャンプーのにおいのする女の子が好きや、 とかいう白石の変態発言も理解出来る)(ええにおい)。

「く、くるし、」
「わ、すまん、」

(やわらかくてとろけてしまいそう)
バッと体を離すと、顔をまっかにして(けれど嬉しそうに)微笑むとバチッと目があって。

「でも、もうちょっとくっついてたい、なあ」

と、彼女の腕が伸びてきた。



(アカン、ほんまに、どうしたらええか、わからん、)
(めっちゃ、かわええ!)


ハリネズミのジレンマ


格好いい謙也がかきたくて結局へたれになってしまいました。
何か天真爛漫な謙也カップルもいいけど、こんな風にジレンマしながら、
じわじわ愛を育んでくかわいいカップルもいいかなあと。