朝練に遅刻した。ついでにジャージを忘れた(寝坊していそいどった)。
白石にめっちゃ怒られた(自分、レギュラーの自覚無いんちゃうか)て。
たまたまやん、たまたまや。

翌日、もっぺん同じ事した。





「あれ、忍足くんどないしてん?はよ着替えやあ、皆もうコート出とるで?」

倉庫からガラガラとボールのカートを引っ張り出しているマネージャーのを待って、 俺は制服のまま部室の前に立っていた。 それを見つけたが不思議そうに首をかしげる。

「今日、部活に参加させてもらえへんかってん」
「ええ!?なんで!??」
「遅刻、忘れ物二日連チャンで白石怒らせてもうて、外周すら厳禁くらった」
「ははあ、残念やったねえ‥私もよく寝坊するし忘れ物多いから気持ちわかるわ」

そう言っては苦笑した。
なら責めずにそう言ってくれると思った(だからわざと、を待ってた)。

「ほんでな、今日一日俺雑用やねん」
「マネージャーの仕事するて事?」
「そ。やからよろしゅう教えて。俺の事扱き使ってええから」
「ええ、ほんなら私よりちゃんと仕事出きる子についた方がええて。 私、マネージャーの中の補欠みたいなもんやもん」
「そやから逆に、二人で一人前って事でええやん?」
「そうかなあ?私は助かるばっかりだけど…何やサポートするはずの人にサポートしてもらうて、 気が引けるなあ…」
「考えすぎや」
「うーん、まあ、じゃあよろしく?とりあえず着替えた方がええよ」

その言葉にあははと笑って頭をかく。はまた首をかしげて「どうしたの?」と言った。

「いやな、忘れ物てジャージやねん」
「えっ、でも学校指定ジャージは?」
「昨日汗だくになって持って帰ってもうて、洗濯して忘れた」
「あちゃあ…」

うーんと彼女は少し考えて、ボールの籠を壁際に寄せて部室の方においでおいでした。
部室に入った彼女は自分のカバンをあさって何かを出した後、俺を振り返った。 その手にはきちんとたたまれたTシャツと学校指定のジャージ(女子カラー)の下がのっていて、 どうやらこれを着ていいよということらしい。

「Tシャツは替え用で、学校指定やないから私の名前も入ってへんしちょっと大きめだから大丈夫だと思う。 ジャージは…忍足くんがはいたら中途半端な丈かもしれへんけど、忍足くん細いからきっとはけるわ」
「ええの?」
「うん。替えって言うても予備で持ってるだけやし」
「ほな、借りるわ。洗濯して返すから」
「ええよ。忍足くん忘れそうやし?」
「うわ、痛いトコつくなあ」
「あはは、冗談だよ。でも本当に気にしなくてええから」

「ほな私、ボール届けてくるわ」と部室から出て行く彼女を見届けて、 思わず俺は彼女から受け取ったジャージに鼻を寄せた (自分でも変態臭いと思ったけれど、好奇心が抑えられんかった)。
ふわっとしたせっけんの香りと、太陽のにおいがする。 それから、鞄に入っていたお菓子の匂いなのか、チョコレートのような甘い匂いもした。
らしい。

やけにドキドキしながらTシャツに袖を通して、なんちゅうかコレ、 逆のシチュエーションやったら良かったんやけどなんて妄想する。 しかし若干こうなる事を期待していたわけだけれど、いざ彼女のジャージを着込んでみると罪悪感がむくむくとわいてくる。
(いや、俺ほんま何してんねやろ)

結局、Tシャツはピッタリサイズくらいでジャージの長ズボンは結構パツパツ。 中途半端に足が見えてて(これは絶対みんなに笑われるわ)という具合だった。
実際、コートで白石に捕まえられていたのところに行くと大爆笑が起きて俺はちょっと憂鬱になった。

さんやりよるなあ、多分謙也にとって一番の罰ゲームになったで」
「え?ええ?」
「謙也さん、似合うてますよ。明日からもそのままでおったらええと思いますわ」
「謙也〜、後で写メとらしてえな」
「小春、俺もとってええで」
「ユウくんのはいらん」
「何でやねん!!」
「お前らなあ…」

後輩には指を指され、他のマネージャーには変態扱いされ (私らのが謙也に汚されたー!とか言うて)、俺の立ち位置って何やねんチクショウ。
(もしこれが白石とかやったら、白石は何着ても様になるなあとか言われんのやで)
(小春やユウジやったらうまいことネタに使って笑いとるんやろな)
(光は…突っ込みスルーやな)
俺の着こなしが悪いのか、そうなのか。

もんもんと考えながら水場でドリンクを作るの手伝いをする。
名前が書かれたボトルにが水を汲んで、その中に適当に粉を入れようとするとは 「あっ、たんま!」と俺の手をつかんだ。

「ちょっとずつ分量ちゃうねん、えっとな、それは白石くんのやから袋3分の1残してな」
「は?そんなめんどい事しとんの?」
「うん、味の好み微妙にちゃうから」
「へえ、俺今まで全然わからんかった。ああ、わからんて事は味が自分にぴったしっちゅうことか」
「良かった。ハードな練習の後とかもね、微妙に入れるもの変わるんやで」
「マネージャーって大変なんやなあ」
「選手に比べたら全然やんか」

よく、大会が終わった後に応援に来てくれた親御さんや友達に向かって部員一同が挨拶をする事があるが、 俺はその時の白石の言葉を思い出した。
『皆さんの支えがあるから俺達はいつも全力でいられます』
なるほどなあ、と改めてその言葉の意味を理解した気がする。

「あとな、」
「ん?」
「愛情も込めてるんやで〜」
「は?」
「白石くん頑張れ〜、金ちゃんかわええ〜、謙也くん格好ええ〜て」
「な、何やねんそれ、」
「だってドリンクとか作ってる間暇やん、色々考えてるとやっぱり皆の事思い浮かぶねん」

にとっての、率直なただの感想だったに違いない。
けれど俺は笑う彼女の横顔を見ながら心臓をばくばくさせて、 妙に彼女を意識しながら3分の1残せといわれた白石用のドリンクの粉をザッと全部ボトルに流し込んだのだった。
(あ)と思ったけれど彼女もとなりでドリンクを作っていて気付いていないようだったので俺はそのままフタをした。

(で、彼女への想いだけがたっぷりつまったドリンクが量産されたわけである)




「なあ、何や今日のドリンク、味ちゃう気がするんやけど」
「え?」

コートに戻って二人でドリンクを配っていると、白石が首を捻ってを引き止めた。
その姿を見つけてすかさず割ってはいる。

「俺のスペシャルな愛情を込めたドリンクやからなあ。何なら明日からも作ったるわ」
「はあ、何や俺のさん手製ちゃうんか、やる気そがれたわ」
「おうおうそらあ良かったわ」

挑発的な俺に白石は口の端を吊り上げ、は「二人とも仲ええなあ」と笑った。

「まあ、俺はええでえ?明日からもずーっと謙也のドリンクでもな。 そんかし自分も、もうさんの愛情たっぷりドリンク飲まれへんけどなあ?」

「ついでに大好きなテニスもでけへんで」と鼻を鳴らして白石はラケットをこれ見よがしに俺に向かって突き出した。

G'wan(やってみなよ)
(それは嫌や、)やっぱ堪忍してほしい!


エンドロールでもやったんですが、彼ジャーより彼女ジャーの方がトキメく体質みたいですね私。
しかし片手間にだらだら打ってたらまとまらなくなってしまいました。