「あかん‥この世の終わりみたいな気分や」 だらしなく頬を机にくっつけてうなだれていると、 独り言(わざと大きめの声で言ったんだけれど)をうまいことキャッチした前の席のが振り向いた。 「さっきから後ろで何なん。気持ち悪い声出さんといて」 「薄情もん」 「うるさい」 はじとっとした目でしばらく俺を見ていたけれど、また自分の机に向かって教科書をめくった。 自習なんだからそんなに真面目にやらなくたっていいだろうと思う。 監視役だった先生はチャイムがなった後すぐにプリントを置いて出て行ったし、 だいたい俺なんかより他のクラスメイトの方がガヤガヤうるさいわい。 携帯出すんもゲームするんもマンガ読むんも自由やし、おしゃべりすんのも自由や。 薄情もんの肩に「うりゃ」と両手を乗せると「重い」とだけかえってきた。 「なあマジ、何があったん?くらい聞けや」 「…それが人にものを頼む態度なん」 「お前、困ってる友達を助けるんに土下座か何かが必要なんか」 「忍足限定でね」 「冷たい」 「忍足限定でね」 「…すん」 「泣きマネすな、気持ち悪い」 「…………………」 「…………………何があったん」 口は悪いし尖がっているけれど、最終的には困ってるやつをほっておけない、そういうタイプだは。 (だから、その優しさにつけこんでしまうのかもしれなかった) (何度も何度も、繰り返し) 「4組の柴田さん」 「………はあ」 「彼氏おるんやって」 「だからさあ」 「みなまで言うな」 「可能性ゼロやって忠告したやんか」 「あああああ俺の初恋終わった」 「あんたいくつ初恋あんねん」 顔を両手で覆った指の隙間から、ちらりとを盗み見る。 俺に興味がなさそうな、つまらなそうな、何か言いたそうな、呆れたような、ふてくされているような、 何とも言えない表情だった。 「さあ…俺がそう思うだけあるわ」 「それ、もう恋やないと思うで。ていうか忍足はあれや。恋に恋しとるんちゃうの。乙女かあんたは」 「そういうはどないやねん」 「今は私の話はしてへん」 「ガードかった」 「あんたと違って自分を安売りせんだけや」 ぷいっとまたプリントの穴埋め作業に戻ったの背中は、どこか怒っているように見えた。 (なんやねん) 頬杖ついて教室を見渡すと、同じように頬杖をついている白石とバチッと目があって、 奴は含み笑いをして視線を外した(腹立つわ)。 (あーあ) あと何度初恋がやってくるかなんてこっちが聞きたい。 それから、恋に恋してるのはお前なんじゃないのか、と目の前のやつに言ってやりたい。 何だかむずむずして、俺は半べそかきながら笑った。 するとがおっかない顔で振り返って「うるさい!」と消しカスを投げつけてきた(小学生か)。 「もっと優しくできんのかお前は!」 「して欲しかったらまずあんたが私に優しなれ!」 その顔は、ちょっとだけ泣きそうだった。 それがどういう意味を持っているかなんてわからないわけじゃないけれど、俺は知らん振りをした。 勇気が出ないから。 (自信もないし) ただ一つ言えるのは、この何度もやってくる初恋は彼女がいなければ成り立たないということだ。 (お互いに卑怯) 直球勝負の出来ない二人の解り辛い気惹き合戦 白石は(バカだなあ)と思ってにやにや見てる側です |