昨日、初めてテニス部の練習試合を見た。
特にテニスに興味があるわけでもないし、お目当ての人がいるわけでもなかったから、 好き好んでファンの大勢いるコートに近づこうとは今までおもわなかった。
だけど昨日は最近気になる人がいるから一緒に見に行って欲しいと友達に頼まれて見に行ったのだ。
ルールとかは全然わからなかったけど、彼らが頑張っている姿は何となく格好よかった。
そんな事を考えながら昨日の事を思い出していると、隣でイスを引く音が聞こえた。

さん、おはよう」
「あ、おはよう」

白石くんは相変わらず朝からキラキラオーラを出していた。
テニス部の部長と言うのはもちろん知っていたが、実際彼がテニスをしている姿を見たのは やっぱり昨日が初めてで。 それをふまえると何だかいつもより白石くんが格好良く見えた (爽やか〜なだけじゃなくて、熱い面もあるのだと知ったからかもしれない)。

「あのね、昨日初めてテニス部の試合見に行ったよ!」

わくわくとそう言うと、白石くんは少し驚いた顔をした。

「へえ。テニスあんまりわからんて言っとったのにどうしたん」
「テニスはやっぱりわかんないけど、友達の付き添いでね」
「何やお目当ての人でも出来たんかと思った」
「そういうんじゃないよ。でも知ってる人だからやっぱり白石くんには目がいったよ。 ただ凄く強くてオーラが出てたから目がいったのかもし、痛っ」
「おはようさん、何話しとんの?」

後頭部にこつんという何かが当たる感じがして、振り返ると謙也くんがいた。 彼のこぶしはグーに握られていて、挨拶代わりにパンチされたのだとわかる。
「もう、痛いよ」と突っ込もうと思ったが毎度の事なのでやめておいた。 言ったところでまたやってくるのが謙也くんだ。 そう思っていたら白石くんが、「謙也、女の子に乱暴すんの止めなさい」ってお母さんみたいに叱ってくれた。

「悪い悪い、の後頭部見てるとつい手出てまうねん。それより何の話?」
「…さんが俺の試合見てあまりのかっこええテニスぶりに俺に惚れてしもたって話しや」
「はあ!?」
「ち、違う違う、確かに格好良かったけど!あのね、昨日テニス部の試合見に行ったの。 謙也くんの試合もちゃんと見たよ」
「何や。そういうことかいな」
「うん。そういえば謙也くんとペア組んでた黒い髪の子、何て名前なの?」
「光か?」
「光くんって言うんだ。あの子、綺麗な子だね。綺麗っていうかかわいい?あっ、 かわいいと言えば白石くんと戦ってた声の大きい子もすっごいかわいかった! 結構離れたとこから見てたのに全部きこえたもん」

思い出してくすくす笑うと、謙也くんがむくれたように腕を組んだ。

「何やもそっち系かい!俺の周りそんなんばっかや」
「そっち系?」
「光も金ちゃんも年下やねん。あ、俺と戦ってたのが金ちゃんな。 謙也と光はダブルスやから、光の事聞きに謙也のとこによく女の子来んのやけど、 謙也はそれが面白ないねん」
「なるほどね」
「せや!俺かてかわいいっちゅうねん。ちゅうか金ちゃんはともかく光がかわいいとか訳わからんわ。 アイツ見た目はまああれやけど中身メッチャ性悪やで!生意気すぎや」
「ああ〜あの見た目で生意気とか、そこがまたかわいいのかも」
「まあな、光は生意気なところがかわええな。それと謙也は別に可愛いない」
「うーん、確かに謙也くんは可愛いっていうかうーん」
「あああああ二人してなんやねん!もうええわ!拗ねたる!ふんっ」
「あっ」

謙也くんはそう吐いて自分の席へと戻って行った。
まるで台風のようだなあと思う。大抵、白石くんと話しているとやってくるのだが いつもあのテンションだ。
席に戻った謙也くんは、本当に拗ねたような顔をして頬杖をつきながら窓の外を眺めていた。

「ほっとき。そのうち寂しくて自分から話しかけにくるで」
「うーん…ていうか、可愛いじゃなくて格好いいかな、って言おうと思ったのに」

そう言ったあと、白石くんは本日二度目の驚き顔を私に見せてくれた。
それからふんわりと笑って、「謙也勿体無い事したなあ」なんて呟いた。

「まあ、確かに可愛いところもあるよね?」
「せやなあ。いじり甲斐あるしな」
「わかる気がする」
「ところでさん、後で謙也が話しかけにきたらさっきの本人に言ったりや」
「さっきの?」
「格好いいて。たぶん面白い反応見れるで」
「ほんと?じゃあ言ってみる」

その言葉に満足したのか、白石くんは「あー楽しみや」と口の端を吊り上げて1限目の用意を始めた。 ふと、謙也くんの席を振り返るといつからこっちを見ていたのだろうか謙也くんと目が合った。
(その視線は、慌てたようにすぐそらされたけれど)


黙っていれば
聞こえた声


(謙也はさんが好きなのね)