「仁くんは自転車とか乗らないの?」

今日は寝坊したから自転車登校した、というそいつに連れられて放課後チャリ置き場に来た。 ガチャガチャと鍵を外していた時、ふと思いついたようにそいつが言った。

「漕ぐのがめんどくせえだろ」
「バイクって怖くない?」
「怖くねえ」
「だって道路走るんだよ、危ないよ!」

「だから、私の自転車に乗せてあげる」と、ずらりと並んだ自転車の列から 自分の自転車を引き抜いたそいつは物凄いいい事を思いついたというような 得意げな顔で言い放った。
何が、だから何だよと思ったが突っ込む間もなく自転車にまたがると、 ぽんぽんと自転車の後ろを叩いた。乗れという事らしい。

「……………」
「ほらほら、後ろどうぞ!」
「おい」
「はやく!」

せかされるままに何だか座ってみたりしてしまって、俺は後悔した。

「しっかりつかまってねー私二人乗りってしたことないんだ〜」
「……………」
「仁くん!つかまってくれないと発進出来ないよ!」
「…いや、おかしいだろ画的に」
「今私のこと馬鹿だなって思ったでしょ!」
「ほら、降りろ」
「なんで?」
「俺が漕いでやる」
「面倒なんじゃないの?」
「お前の下手糞な運転じゃ命がいくつあっても足りねえからな」

何だかんだ、やっぱりこうなるんじゃねえかと思いながら俺はペダルに足をかけた。 足の短いこいつ用のママチャリにまたがっている姿は最高にかっこ悪いだろうなと 考えながら、「よいしょ」と年寄りくさい掛け声で後ろに座るそいつの声を聞いていた。

「…掴まれよ」
「う、うん」

いつまで経っても掴まる気配の無いそいつに舌打ちをする。

「…おい」
「だ、だって何か、は、恥ずかしいね…」
「さっきお前が俺にした仕打ちだな」
「う〜〜〜」
「さっさとしろ」
「じゃ、じゃあ…うわあ!」

ピン、と制服の裾が引っ張られた瞬間を見計らって右足を思い切り前に踏み込んだ。 ぐんと回転する車輪が駐輪場の砂利とぶつかって派手な音がする。
突然の発進に驚いたそいつは、がっしりと俺の腰にまとわりついてきていて、 それが何だかくすぐったかった。

「あ、あ、あぶなかったーーー!」
「最初から素直にそうなっときゃ安全な発進だったぞ」

何も言わないそいつのかわりに、背中のぬくもりを感じた。
こんな日もたまにはあっていいかもしれないと考えながら、 まだまだ沈みそうにないしぶとい午後の太陽を仰いた。


光、そう呼ぶはずのもの