「仁くんって私にわがままいっこも言わないね」
「ああ?」

またくだらないことを言い出したな、と思った。
色んなところに連れ回したり、たまに適当にあしらったりする事が俺の わがままである事なんかこいつにはちっとも理解できないらしい。
純粋だからなのか、はたまたただ鈍感だからなのか。どっちもか。

「何かないの?してほしいこととか、止めてほしいこととか、えーっとあと、何だろう?」
「誘ってんのか?」
「え?」

やっぱり鈍感だからか。
したい事をあえてあげるとしたらセックス、止めて欲しい事をあげるとしたらその鈍感さを直せ、だろうか。

「特にねえよ」
「うーん…じゃあ、何されたら嬉しい?」
「……………」
「何でも言っていいよ!あ、私に出来る範囲で!」

今日はとことん絡んでくるな。
しかしこいつのこの奉仕精神がいったいどこから沸いて来るものなのか実に興味深い。 大体、こんな俺のどこがいいと言うのだろう。 適当で乱暴で、一緒にいてこいつは被害ばかり被っている気がする。損ばかりだ。

比べて俺はと言えば、なんだかんだこいつと一緒に居れる事に居心地の良さを感じている。
不思議な事もあるものだ。

「じゃあそうだな。名前でも呼べよ」
「?仁くん??」
「もっとだ」
「仁くん仁くん仁くん仁くん仁くん」
「あーもういい」
「終わり?」
「あー…じゃあ好きだって言え」
「す、す…すき…」
「へえ」
「何その反応…なんかさびしいよ…」
「もっと言えよ」
「…すっ、…すーすーすー……結構はずかしい」
「だから言わせてんじゃねえか」
「仁くんも言ってよ」
「今は俺のわがままをきいてくださってんだろ?」
「……す、すき……すき、すきすきすきすきすきすきすきす、ッ!」

ヤケクソになったのか、真っ赤な顔で捲くし立てるように言うそいつの口を、 勢いよくふさいでやった。
(うるさいわけじゃない)
(愛しいと思った)(のだろうか)

「な、なに、なっ、」
「お前が言ったんだろキスって」
「ち、ちがうよ!すきって言ったの!仁くんが言わせた!」
「俺のせいにすんのか」
「…もういいよーだ」
「俺はよくねえ」
「何が?」

耳まで真っ赤にしたり怒ったり、いじけたり相変わらず見ていて飽きないその顔が きょとんとこっちを見つめている。 その様があまりに俺を信用していて、なおかつとても純朴で。
俺なんかの隣にはそぐわないように思える。
狼が兎を狩るのと同じだ。

べろりと首筋を舐め上げて、このままこの薄い皮膚を破って 細いからだに流れる血を全部吸い上げてしまおうかと考えた。 (そうしたら全部俺のものになるのだろうか)
噛んだり舐めたりを繰り返しながら、片手でスカートを捲り上げる。 すると焦ったようには必死にスカートの裾を押さえ始めた。

「、あ、っじん、くん」
「どうした」

お構いなしに下着に手をかけると、思い切り足を閉じられた。

「まっ、え、何で、ちょっと、待ってまって、!」
「わがまま何でもきくんだろ?」
「そっ、それはこういう事じゃなくって、全然、行きたいところとかそういうっ」
「行きたいところねえ…別にねえな」
「だからって、」

まだお昼だよ、というそいつの唇をふさいで押し倒した。

息詰まる孤高が綻ぶまで