放課後、私は足早に部活へ向かおうとした鳳くんの腕を掴んで引き止めた。
昼休みからもやもやとした気分でいた私は、何かを隠していそうな 鳳くんに一体どういう事なのか聞くしかないと思った。 (午後の授業なんて右から左へ聞き流してしまって、身が入らなかった)

案の定、腕を掴まれた鳳くんは何かを隠しているかのように少し、焦っているようだった。

「俺、部活に…」
「うん、そんなに時間取らないから。鳳くんが早くはいてくれれば、だけど」
「一応聞くけど、何を?」
「…ラブレターの事」
「…俺は何も…」
「あれ、どっちも私じゃないよ。鳳くん何か知ってるんでしょ?」
「えっ」

私の言葉に、鳳くんは意表をつかれたように驚いた顔をした。
(そのリアクションに私もびっくりさせられた)

「えっ、って、」
「白紙の方は さんじゃないの?」
「えええ!?私、それは鳳くんが日吉くんと組んだいたずらかと」
「いや、俺は さんが持ってきた方の犯人」
「は?私が持ってきたって…もしかして差出人が実在するのに存在しない…」
「そう。騙してごめんね?俺があの子達に協力してもらってさ。 でもまさか俺に託されると思わなかったけど」
「ちょっと待って、意味が……まさか…」
「うん?」
「鳳くんが日吉くんの事好きだったなんて…私、ごめんね気付かなくて」
「ちょ、ちょっと!たんまたんま!」

私の混乱した頭の中では、ラブレターと鳳くんが犯人という二つのデータだけが ぐるぐると回ってしまって。 結果導き出されてしまった答えが、鳳くんは日吉くんにラブレターを渡したかった という変なものだった。

「違う違う!俺と日吉、グルだったんだよ!」
「??いや、私ほんとに意味が…」
「日吉と さんが話すきっかけになればいいと思って俺が提案したんだ」
「何で鳳くんがそんな事するの?ていうか私、別に日吉くんと喧嘩したわけでも無いし… ただクラスが分かれても会いに行く程大親友ってわけでも無いわけで」
「いや、それは…まあ置いといてさ。とにかく。 俺、朝さ、白紙のラブレターの謎をどうみる?って聞いたじゃない?」
「んー…そういえば?」
「その時 さんが何となくかなあって言ったの聞いて、差出人が さんだって思ったんだ」
「ええ?」
「嬉しい誤算だったなって思って俺、変に嬉しくなっちゃったんだけどさ、」
「いや、鳳くんおかしいって。何で鳳くんが日吉くんにラブレター渡そうとして 私に預けてそれで白紙のラブレターが日吉くんの手に私が書いた事で喜んでるわけ?」
さん、混乱しすぎ」

鳳くんはそう言ってくすりと笑った。
けど、ちらりと腕時計を盗み見て小さくやべっというと困ったような顔になって。

「ごめん、後は自分で考えて。俺、本当に部活行かなきゃ」
「あ、そうだよね、ごめんね引き止めて」
「ううん。俺こそごめんね。騙したみたいで」
「うーん…腑に落ちないけど今日はいいや。部活頑張って!また明日!」

ばたばたと廊下を走っていく鳳くんの背中に向かって大声でそう言うと、 鳳くんは少し振り返って私に手を振ってくれた。
その時、そういえば昨日もこうやって鳳くんが廊下の角を曲がるまで 彼をじっと見ていたっけと思い出して。
何だか変で忙しい日が続くなあと思った。

(にしても、一体どういう事なんだろう)
鳳くんと日吉くんのたくらみに巻き込まれているのは確かだが、理由はわからないし その上彼らの意図しないところで新しい謎が生まれている。
(存在しない子からのラブレターは、解決)
(じゃあ白紙は?)
私でもない、でも鳳くんでもなかった。

(じゃあ…もしかして日吉くんが自分で?)

いや、でもその手紙に使用されたプリントはうちのクラスにしか配られなかったミスプリで…。 そういえばそんなのあった気がしないでもないかなあ。

って事は、もしかしてこのクラスに日吉くんに白紙の手紙を送った人がいるって事?


願望と行動の矛盾について