「愛の始まりならいいなって思いました」

海から上がった彼女と一緒に、岩の上に座り込んだ。
隣の彼女からは、相変わらず甘い花のような香りが漂ってくる。

「私、本当は先輩のこともっと前から見てたんです。声かけられた時はびっくりしました」
「びっくりしてるようには思えなかったけど?」
「でもびっくりしてましたよ」

彼女はそう言って体育すわりをした膝に顎をつけて遠くを見つめた。

穏やかで、静かな空気。
ぽつりぽつりと話す彼女の声が心地よく入ってくる。

「好きだよ」

驚くほど素直に言葉が出てきた。
けれど今、言葉にして伝えたいと思った。

意を決した告白のつもりだったのだけれど、彼女は一言「そうですか」と呟くとそれきり何も言わなかった。

「あれ、返事はくれないの?」
「もうしてるのと同じじゃないですか」
「ちゃんと聞きたいな」
「……好きです」
「うん。俺も」



波の音のように。
囁く彼女の声は美しい。

しばらくの間、俺たちは余韻に浸りながら波の音を遠くに聞いていた。









あれから二年、あっという間に時間は過ぎた。相変わらず不思議で掴みどころの無いと居るといつの間にか時間が経っている。今日はそんな彼女の卒業式の日だった。
高校も俺と同じところへ行くと言い、元から頭のいいはそれほど大変な思いもせずに合格通知をもらった。そんな彼女におめでとうを言うのは直接会って、と決めていた俺は彼女の家の前で帰りを待ち伏せていた。

並んで歩いてきた彼女の母に軽い会釈をすると、ゆっくりしていってねと微笑まれた。

俺の前で立ち止まっていた彼女の腕の中には、彼女が三年になっても大事に育てた鉢植えが大事そうに抱えられていた。
、鉢植え持ってきちゃったの?」
「うん。だって大事なものだから。 先生も卒業祝いだって。元から私のものみたいになってたけどね」


三月、鉢植えの中で花はまだ眠っていた。
きっとこれからまた、たくさんの花を咲かせる事だろう。



、好き」
「何?」
「言いたくなっただけだよ」
「変なの」



嬉しそうに目を細めた彼女は、初めて俺に笑いかけた日と同じように、笑った。

臆病な僕が手に入れた世界のすべて