13:)徹底的に
ボール籠をゴロゴロと転がしてコートに戻ってくると、部員達が二人組みで柔軟体操をしているところだった。 そんな中、入り口付近で一人ぽつんと立ってきょろきょろしているユウジくんと目が合った。 「何してるん?」 「小春おらんからやる気でーへんなーと思ってぼーっとしとったら二人組みからあぶれてもうてん」 「ああ、小春くん今日途中参加やからね」 「せや!生徒会の奴ら、俺の小春拘束しよって何かあったらしばき倒したるわ」 冗談だと思いたいけれど、ユウジくんならいつか本気でやりかねないなと思い「ほどほどにね」と釘を刺す。 それが伝わったとは思えないけれど、とりあえず困っているようなので助け舟を出す事にした。 「良かったら私と柔軟する?」 「ええんか」 「うん。今日は球出しまで暇やから」 「ほな頼むわ」 まあ正直なところ、「お前となんか嫌じゃボケ」とか言われるのでは無いかと思ったんだけれど、 ユウジくんは意外にも普通の対応で私は何だか拍子抜けだった。 ぺたんと座り込んで開脚するユウジくんは顎で私に『早くしろ』と言ってきて、 先ほどまで転がしていたボールの籠をコートの端に寄せて私はユウジくんの背中を押した。 「うわー、ユウジくん体柔らかいなー!」 「これくらい普通やろ。白石の方が凄いで。いや、あいつ凄いっちゅうかもうキモいレベルやけど」 「確かに白石くんはもう関節ぐにゃぐにゃやね」 白石くんの体が柔らかいって事は前から知ってたし、 ヨガとかストレッチをしてるっていうのも知ってたから納得だけど。 「次」と言ってユウジくんが開脚した足にあわせて、私も開脚して足の裏をくっつけようとしたのだけれど。 「いや、むり、むり」 「お前…やばいな」 繋ごうと伸ばした手を、少し引かれただけで身体が強張って悲鳴を上げる (大体、ユウジくん足開きすぎ。無理、そんなに開かんて)。 呆れたようにため息をつくユウジくんが「ちょっと痛いくらいを維持すんのが次のステップへの基本や」 とか言ってゆーっくりと私の腕を引っ張っていく。 いやいやちょっと待てよ、私の柔軟は必要ないんだよと頭の隅で考えて「むりむり、いたいよーー!」と声を上げる。 結局。 我慢出来なくてかくんと膝を折ると、その反動でユウジくんの方にぐんと体が持っていかれる。 二人で倒れこむまでは行かなかったけれど、私は額をユウジくんの肩に突っ込んで痛い思いをした。 「お前なあ」 「ユウジくんのせいやんか…私、額まで打ってもうて痛いわもー…」 「俺かてお前の石頭のせいで肩が重症や」 「あっ、それはごめん、肩は大事やからほんまに痛いんやったら保健室、」 「冗談や」 「………ユウジくんてエムに見えてエスやんな」 「そんな事ないわ。俺めっちゃ優しい男やし」 「まあ、小春限定で」と頬を染めるユウジくんに、「うわあ」と身を引く。 するとそこに「あんたら何くんずほぐれつしとんのん、ちょっと注目されてんで」 と小春くんの声がして、ユウジくんはいつものように彼の名前を呼び立ち上がったのだけれど、 私は(ええ、)と思って辺りを見回し確かに部員達がこちらを伺っていたのを確認した。 やーやーと騒ぐユウジくんと小春くんの傍で私はぽつんと何やら恥ずかしい気持ちになって、 どうしてくれるんだと恨めしそうにユウジくんの背中を睨んだのだった。 (やっぱりドエスや、ユウジくん) 柔軟に無限の可能性を感じます‥ 体固いのを無理に引っ張って、「無理ー!」って倒れこむのはデフォだと思います。 二人組みで片方が柔らかいとよくある(限度と加減がわからなくて)。 背中に背負って背筋伸ばすのとかもね、男子同士のを見てると激しくて面白いよね。 ユウジは女子にも本気でやってきそうです。 |