12:)立てない

何も無くだらだらと光の部屋で過ごしていた休日のこと。 私なんか居ても居なくても同じだというようにひとり黙々とパソコンに集中する光の傍で、 私は机の上に出ていた情報誌を眺めていた。
インテリアとか、おススメのお店だとかが載ってるオシャレ雑誌で、 光と音楽の趣味があまり合わない私にとってこの部屋にある本の中で唯一読んでて楽しい本だ。 それがわかっているからかたまたまなのか、真意はわからないが大抵私がこの部屋に来る時はポンと目につくところに置いてある。
(いや、私の為にとか思っているなら光が相手をしてくれよ)とは思っても口にしない。

ペラペラと捲っていく中で、ふと目にとまったのが絵本カフェの記事だった。
紹介されているのはまるで絵本のような見た目のスイーツで、 スクエア型のフルーツケーキの上に表紙代わりのホワイトチョコが乗っていて、 色とりどりのチョコペンでかわいらしい動物が描かれている。 店の内装もまるで絵本の中にいるような雰囲気で、何と入り口は子供の背丈サイズらしい。

(すっごいファンタジック)
行ってみたいなあと思いながらじっと見つめていると、「は?」と言う声が聞こえて、 顔をあげると光が訝しげな顔で私を見ていた。

「え?」
「いや、え、やのうて今お前がファンタジーがどうのて言うたんやないか」
「嘘、私声に出しとった?」
「モロ」
「ごめん独り言」
「あっそ」

冷めた口調、それに次いで机に肩肘をついて私を見下すような姿勢に(私ほんまここに居る意味無い気がするわあ) と自虐的な気持ちになると、光が突然私から雑誌を取り上げて「ああ」と一人納得する。

「俺もファンシーやと思ったわ」
「何が?」
「いや、この店の記事見とったんやろ」

そう言って光は私に雑誌を返してくる。

「ああ、うん」
「ほな行くか」
「は?」
「行きたいて言うたやろ」
「え、それも言ってもうてた?」
「お前独り言多いわ」

一瞬たりともニコリとしない光に私はグサグサと心の傷を増やしていく。 (すいませんねお邪魔して)と若干ふて腐れていると光はイスから立ち上がって一つ伸びをした。 それからおもむろにコートを羽織って、「何ボサっとしてんねん」と私を急かす。

「どっか行くん?」
「いや、せやから人の話聞け。カフェ、行きたいんやろ」
「…今から!?突然!!?」
「突然でも無いわ。俺もチェックしとったし」
「私がチェックしたん今さっきやけど」

予想をはるかに超える光の突拍子も無い行動に私はついていけず、 (何か裏でもあるんか)と無粋な考えを抱いて立ち上がれずに居た。
すると光は面倒くさそうにため息をついて、私に向かってすっと手を差し出してきた。


「ほら」と言う光の表情は相変わらず無表情だった。
その有無を言わさない態度に私は差し出された手を握りながら、 この手のぬくもりをもうちょっと言葉や表情に振り分ける事は出来ないのだろうかと贅沢な事を考えた。