09:)抵抗する (靴擦れ謙也バージョン)

謙也が遊園地に行こうって言い出した。 絶叫系ばっかり乗って、ムードもへったくれもなく一日中園内を走り回るんだろうなって思いながら、 勿論「行く!」と元気よく返事をした。
だけどほら、デートなんだからおめかししたい。
でも、ヒールは無かったかもしれない(後悔した)。



「謙也、ちょっと待って、」

朝から(思った通り)絶叫系に乗りまくり、ぐるぐると広い遊園地を駆けずり回った。 待つのが嫌いな謙也は乗り終わったら「次行こうや」「はよ行こうや」 と私の腕を引いて走った。
最初のうちは良かったし、私も楽しかったし謙也に負けないように走り回ったいたのだけれど、 夕方になるにつれて足がじんじんと悲鳴を上げ始める。
(ちょっと、我慢できないかも)と限界まで我慢したところで私は謙也を呼び止めた。
「どないしてん」と謙也がちょっと先で立ち止まる。
そこまでひょこひょこと歩いていくと、謙也は困った顔をした。

「びっこ引いて、足捻ったんか?」
「んーん、靴擦れ。ちょっと座ってええ?」
「悪いわけあるかい、ほなそこのベンチ座りや」
「うん」

ふう、と一息ついて靴を脱いでみると両足の小指が赤く擦れてちょっと出血していた。
(右足は親指側もマメが潰れてひりひりしてたし)
「うわあ、見るとまた痛いわあ」と絆創膏をカバンから取り出す。 私の足を覗き込んだ謙也が、「うわ」と息を飲みそれから「すまん」と項垂れた。

「なんで?」
「こんなんなるまで気付かんかって。相当我慢してたんやろ」
「別に、楽しかったから立ち止まりたくなかってん、 それにいっぱい歩くってわかっててヒールチョイスしたん私やから」
「まあそれもそうやな、スニーカー履いてきいや遊園地ぐらい」
「謙也の前でオシャレしたかったんやんか!デリカシーないヤツ!」
「冗談やって!かわええなって、ちゃんとおもとった!隣歩いてて、う、嬉しい…しな」

自分で言っておきながら恥ずかしくなったのか、どんどん尻すぼみになっていく謙也に私もちょっと恥ずかしくなる。
(ずるい、謙也のくせに)
しかし慣れない事はするものではない、私たちはしばらくの間むず痒さに固まった。
先に動いたのは謙也で、「絆創膏、はったる」と私の手からそれを奪い私の前にしゃがみこんだ。

「痛そうやな」
「痛いもん」

ぴと、と絆創膏が足に張り付く。謙也の指先がくすぐったかった。
「ありがと」と言うと、謙也はニッと笑って私の足の甲にキスを落とした。

「っちょお、何すんねん!」
「おまじないや!」
「そっ、そういうの謙也のキャラとちゃう!白石みたいなんがやるべきや!」
「はあ、白石やったらトキメく言うんか!お前、こういう時他の男の事出すか!?」
「せっ、せやかて何か痒くてどんな顔したらええか、わ、わからんやんか」

たぶん、真っ赤になっているであろう顔を両腕で必死に隠すと、 謙也はちょっと笑って私の隣にストンと腰を下ろした。
(なんや今日の謙也は、おかしい)
(こんなにときめくとか、おかしい)

「何やほんま、今日かいらしな」
「謙也はほんま、今日はキャラがちゃう、へたれてへん」
「彼女が可愛えと彼氏も男前になるんやろ」
「自分で言うな」
「意地っ張り」



(こんなよう出来る彼氏、謙也とちゃう、認めへん)
調子に乗ってキスを強請って来た謙也のほっぺたをつねってやった。

(観覧車の中で、夜景を見ながらやったらええけどね!)



謙也は気付かないけど、フォローがうまいんじゃないかなあと(ちょっと空回ってても)。
無駄に責任感じてたりね。