07:)殴られた

「いたあい…」
「良かったね、生きてる証拠じゃん」
「ひどおい…」
「………うざあい」

昼休み、千石の元に一人の女の子がやってきた。 背が小さくて、髪型はゆるふわ愛されパーマで、唇がぷくっとしていて、目が大きい子だった(要はかわいい)。 登場シーンに効果音をつけるとしたら『きゅるん』だ、絶対。
彼女に「ついてきて欲しいんだけど」と言われた千石は目をハートマークにして鼻の下を伸ばし、 彼女の小さいお尻の女の子を追いかけて教室を出て行った。
(ああいうタイプ、危なそう)と私はその時思ったのだけれど、案の定千石はほっぺに真っ赤なビンタの痕を残してかえってきた。 そして、さっきのセリフ。

「大体なんでそんな事になるわけ」
「えー、だってあの子、付き合って欲しいんだって」
「おめでとう!で、何でそうなるわけ」
「『ごめんね、それは出来ない』って言ったら殴られた」

「ハア?てめえアタシに恥かかせんのかよ、下手にでりゃあ調子こきやがって」って、 と声マネと顔マネとそぶりまで真似て千石は言った。
それがおかしくて「プッ」と笑うと、千石は「酷いよねえ」と机にうなだれた。

「ああいう女の子は切れるとおっかないんだよね」
「はあ…女の子恐怖症になりそう…」
「丁度良かったじゃん」
「えー」
「どうせ千石に付き合ってなんて言ってくる子は、どっか狂ってるんだよ」
「…ところでさあ」

千石が机に突っ伏したまま、上目遣いでこっちを見た。 私は知らん振りをして携帯をいじり始めて、千石はため息をついた。

(あんたがどうしてその子の告白を断ったのか、聞いて欲しいんでしょう?)
でもその手には乗らない(私はまだ狂った女の子になりたくないから!)