04:)叫ぶ

部活のミーティング中、何となく鼻がむずむずするなあと気なり始めて数秒後「くしゅん」と一回くしゃみが出た。 「すまん」と言って話を進めようとしたら、隣で書記をしていたマネージャー(であり恋人でもある)から「ブレスユー」と頬にキスをされた。
一瞬場が静まって、ワンテンポ置いてぎゃあぎゃあと騒がしくなった。 謙也なんか悲鳴を上げていたが隣の財前から「煩いっすわ」と小突かれている。

「お前らそういうん二人っきりん時にせえ!」
「謙也さん耳元で叫ぶん止めてください」
「大胆ねえ」
「小春、俺らも見せ付けたるで!」
「それはええわ」
「小春ぅ!」
「あーあー煩いわ!」

当の本人をげっそりと見やると、何でこんな事になっているのかさっぱりわからないといった顔できょとんとしていた。 ただし、やあやあ言われて恥ずかしい事をしたという自覚はあるのか少しだけ頬を染めながら。
そんな彼女の頭をこつんと叩いてやる。

「あんな、意図はわかるんやけど時と場所を考えなアカンわ」
「うん、ごめん、なんや感覚おかしなってたわ」
「まさか俺以外の奴にしてへんやろな」
「それはまだやってへん」
「ほならええわ。で、さっきの続きやけど今週の土曜は、」
「いやいや!ちょお待て!さらっと流すな流すな!!」

手の角度をビシッと決めて俺に向かって突っ込みを入れてきた謙也に、内心(ちっ)と舌打する。 俺としては円滑にミーティングを進めるためにその話を広げたくはなかったのだけれど。
「はあ」とため息をつくと、小春が俺の心情を察したのか「謙也、知らんの?」と口にする。

「何が?」
「ブレスユー、アメリカではくしゃみするとそう言うんやで。 口から幸せ逃げる言われとって、『神のご加護を』て意味で言うねん。 アイルランドでは言ってもらわれへんと、くしゃみ3回目で妖精に連れていかれるとか、 フランスではくしゃみの間に願いを3回唱えると叶う言われとって 『貴方の願いが叶いますように』っちゅうことでア・ヴォ・スエ言うんやで。 ドイツではグーゾンハイトやな。『健康』って意味や」
「流石俺の小春、物知りやなあ」
「いやいや、ここ日本やし」
「こいつん家、交換留学生がようホームステイしに来んねん。 小さい頃からそうやったみたいですっかり海外かぶれやで」
「へえ、そうやったんか」

(まあ、頬にキスまでは普通せんけど)
と、うまく収まりがついた為にそう言わなかった事を後ほど後悔する事になる。 覚えた事を試したくなる性格の謙也がそれを実行に移さないわけもなく、 クラスでも部活中でもくしゃみをした相手に駆け寄っては「ブレスユー!」とスキンシップを図るようになったのだった (流石に女子にはキスしとらんみたいやったけど)。
その度に「きっしょいわ!」と怒鳴られながら、「いやそれがな!」と広める謙也を見ていると何だか複雑ながら微笑ましい気分になるのだった。



アイルランドの妖精連れ去り説は、連れて行かれた人の後にはその人の偽者が置かれるらしいです。
それは面白い。
あと曜日毎にくしゃみの意味合い(木曜のくしゃみは何かいい事が起きるとか、月曜のくしゃみは危険を告げるとか)があったりするみたいです。
日本では噂話がどうとかそういう迷信しかないですよね。

しかし白石夢っていうより雑学の話になりました。