03:)噛む

お昼休みに教室で他愛無い会話をしながらお弁当の後のブレイクタイムを過ごしていた。 隠し持ってきていたお菓子を広げて、午前の授業についてあーだこーだ言ったり 放課後どうする?なんて相談したり。
学校生活の中で一番好きな時間かもしれない。午後は授業があと2コマしかないし。
そんなささやかな時間をぶち壊しに来たのは、お菓子を広げると どこからか匂いを嗅ぎ付けてやってくる丸井くんだった。

「おーーーーっ今日はチョコレートか〜!俺にもひとつ!」
「うわあ今日もちゃーんと来たよ…だーめ!あんたの『ひとつ』は全部でしょ!?」
「確かに」

友達がすかさず丸井くんの手の届かないところに箱を避ける。 「何だよケチ」と唇を尖らせる丸井くんに笑っていると、彼の視線は私の指先にとまっていた。
私の親指と人差し指の間には、丸井くんが声をかけに来る直前に かわいらしいパッケージからつまんだばかりのおかしがあった。

「もーらい!」
「うわあっ、痛っ!」
「ぎゃあああちょっと丸井!あんた何してんの!!」

あろうことか丸井くんは勢いよく私の指に噛み付いてきた。 暖かい舌の感触がざらりと指の腹をかすったと思った時にはチョコレートは なくなっていた。
びっくりしたのと痛いのと、どんなリアクションと取ったらいいのか考えあぐねていると 友達がガタンと席をたって丸井くんの頭をはたいていた。

「あんたねえ!この子が穢れるでしょうが!!このデブン太!!」
「俺はバイキンかよ!!悪かったって!!」
「いっ、いいよ大丈夫!」
「よくないよ!手、洗ってきな!」
「ひっで!」
「あったりまえでしょー!」
「ほんと、大丈夫だって!」

二人のやりとりが面白くて笑っていると、丸井くんが「何笑ってんだよー」と言い 友達が「あやまんなさいよ」と彼を小突いた。

「悪かったな。今度は噛まないように気をつける」
「狙ってやってたのか!」

友達にどつかれる前に退散とばかりに、仁王くんのところに走っていった丸井くん の背中を見て私はまた少し笑った。
明日からのこの時間は、ちょっとドキドキする時間になりそうだった。