卒業式が間近に迫ってた。
だからみんな、ちょっと焦ってた。




ヒーターの切れた寂しい教室で、彼女は静かに泣いていた。こうなる事がわかっていたから、俺は学校に残ってた。 俺はこれからずるい事をしようとしてる。けれど、誰にも止められない (だって、これからする事を知っているのは俺しかいない)。



名前を呼ぶとピクリと彼女の影が動いた。けれど顔は上げない。
俺はてのひらにかいていた汗をズボンでぬぐって、教室の中に踏み込んだ。
自分の教室でもあるはずなのに、今は全然見知らぬ光景に見える。それくらい、緊張してた(多分)。

彼女の席の前のイスを引いて、ゆっくりと腰をおろすと彼女は小さく「ふられた」と呟いた。 それから、「わかってたけど、言葉にされると辛いね」と。

彼女が好きだった男は俺の去年のクラスメイトだった。
ある日の好きな相手を知った俺と、俺がそいつと繋がってる事を知った。 タイミングが悪かったわけじゃない、俺との間にズレがあっただけだった。
俺は彼女を応援する以外の選択肢はなく、けれど彼女の好きな男にはすでに彼女がいた。
その事実を知ってもは「好きってちゃんと伝えて卒業したい」となきそうな顔で言った。それが今日。

だから俺も、今日彼女に言わなければならない事があった。

、ずっと言えなかったんだけどな」
「…うん、」

「俺、お前が好きだ」、その言葉は残酷なまでに冷静だった。 緊張していたのが嘘みたいに(いや、してなかったのかも)、すっと口から出て行った。 彼女はやはり顔を上げずに、ただピクリと肩を揺らした。

「なあ、正直途中からアイツの事、どうでもよくなってただろ」

酷いことを言っていると思う、われながら。
アイツは俺の友達で、も俺の友達で。
だけど言ってやらないと、わからない事もあると思う。俺の自惚れだったらそれでいい。 彼女は俺を貶して、嫌って、そしたら俺はきっぱりと彼女を諦めようと思っていた。
(だけど彼女が俺に声をかけにくるたびに)
(もしかして、もしかして)と心のどこかで思ってた。

「告る相手、間違ってんじゃねーぞ」

ふと、彼女が顔を上げて俺を見た。その顔は真っ赤で、それから涙に濡れていた。

「図星?」
「…わかんない、だってそうだったら振られて泣いてる私、おかしくない?」
「それもそうか」
「…うんそうだよ」
「…なあ、返事はくんねーの?」
「黒羽くん、タイミングが酷い」
「利用すればいいだろ俺の事。俺がアイツを利用したみたいに」

「私の好きな黒羽くんはそんな人じゃない」と、彼女はすんと鼻をすすった。
(じゃあ一体本当の俺はどこに居るんだよ)

「今はわかんないよ、だって私泣いちゃったから」
「そっか」
「ねえ、」
「うん?」
「明日当たりに私も黒羽くんの事が好きでしたって言ったら、私は酷い女の子かな」
「さあ?俺の好きなはそんな奴かも」
「それ、何気にひどい」
「っはは、お互い様だろ」



確かに彼女はアイツの事が好き『だった』のかもしれない。
(けれどそれ以上に俺の事が好き!それだけの話だろ?)


鈍感ぶった感受性なんか