(出会った時から、お前の事が嫌いだったよ)
その人を見下すような冷たく深い瞳が、特に。 「せんぱーい、すんませんけどタオルとってくれまへんかー」 「…………………」 「せんぱーい。俺、水中で目開けられん人なんですわぁ」 「そりゃええこと聞いたわ。今なら右ストレートが綺麗にきまる訳やな?」 脅しかけるように呟くと、財前は喉の奥で笑いながら目を開けた。 「勘弁してくださいよ先輩」 「…………………」 こいつとダブルスを組まされてから、まだ数日。 たった数日だというのに、何故か何年も共に過ごしてきたかのような錯覚に陥る瞬間がある。 それはこいつの、見透かすような瞳だとか。馴れ馴れしい態度だとか。 適当な言葉遣いがそうさせるんじゃないかと、思う。 事ある毎に「先輩」「先輩」と直ぐに俺を呼ぶ様は。 どこまで自分の自由が許されるのだろうかと詮索しているような意図を感じる。 今だってそうだ。 自分の存在が、俺の中でどのような位置にあるのかを計った。 (俺はこいつのそういうところが嫌いだ) というか全部、嫌いなのかも知れない。 「先輩って可愛い人っすね」 タオルで覆われた顔からも、はっきりと伝わってくる感情は その言葉に似つかわしくない程の冷酷さ 「まるで、虎に追われた仔猫みたいっすわぁ」 そういうお前は、ヘビに睨まれた蛙みたいに 目の前の圧力に押しつぶされそうになってるんじゃないのかって 少しだけ哀れに思った |