暑い夏の入り口で、俺達の夏は終わった。




コンソレーションでの敗退、あれから観月は常に無くピリピリとしていた。 趣味の紅茶も納得いかない仕上がりになってしまうらしく、カップを口に運んでは顔を顰めてため息をつく。
話しかければ一触即発、怒鳴り散らされてそれで終わり。
怒鳴られるのは見当違いだし、腹立たしい気持ちもあるが何より観月の心の中がわからない程みんな子供でもなかった。しばらく放っておけばそのうち機嫌もよくなるさ、と皆に声をかけてまわる日々が続いた。



そんなある日、敷地内の協会からパイプオルガンの音が聞こえてきた。 ビリビリと割れる音を響かせる犯人は大方予想がついていた。 いつもは心を穏やかにさせてくれるしっとりとした音が、今はとても不快だ。

ため息をついて協会の扉を開けると、その背中から怒気が伝わってきた。

「いい加減にしろ観月」

彼は上からものを言われるのを嫌う人間であったので、てっきりその言葉に反論してくるかと思ったが観月はオルガンに向かったままこちらを向こうとすら思っていないようだった。
華奢な背中は俺を拒んではいないように感じられた。躊躇い無く近づいて彼の腰掛ける長椅子に腰をおろす。

「お前って物事を裏側から見てる感じがするな」
「…………………」
「多分、同じ目線から見ようとしてもまったく違うものが見えるんだろうな」


ふと、ゆっくりと首を動かして彼は俺を見た。
なんだか久しぶりに目があったような気がする。

その、久しぶりに見た彼の瞳にはじわり涙が浮かんでいた。
(バカだなあ、プライドとか、責任感とかそんなもの)
(さっさと捨ててしまえばよかったのに)



泣く事もひとつの勇気だ、なんてくさい文句しか彼にかけることが出来なくなった。

あっけない終わりほど容易く訪れる