「たまに思うんだよな。失ってくばっかりで何を手に入れてるんだろうってさあ」
「何です唐突に。忍足さんの気持ち悪さにあてられましたか」

学生の一日はとても短い。
朝起きて飯くって、テニスして適当に授業を聞き流してまたテニスして、家に帰って疲れて寝て。
ほとんどテニスするために生きてんじゃないかってたまに思うけど。
その中で大事なものを見つけたりして、だからそれでいいんだっても思ったりする。

だけどその大事なものは、いつまでも俺の中に納まっていようとしてくれないから、俺はたまに眩暈ににた哀しみと虚に襲われることがある。ガラじゃないって笑われたって別にいい。それでも吐き出したくて仕方ない時が、たまにやってくるのだ。
それが今日は、全国に向けてのダブルス特訓の相手の日吉だっただけの話。別に誰にしようと思って口にした言葉ではなかった。

「お前さ、何か怖くなるときねえの?生きてる自分って何だろう、みたいな」
「ふっ。ありませんねそんなこと。俺は俺ですから」
「…意外とっつうか、まんまっつうか跡部みてえな野郎だなお前は」
「一緒にしないでくださいよ」

俺だって、自分は自分でしかないと思う。
だけど突然沸きあがってくるものがあるんだ。

そもそも宇宙とか惑星とか、命とか時間とか。
すべてが何も無かったらこんな風に考えたりすることもないわけだろう。生きるのに面倒になったり、もどかしさに笑いたくなったり、当然辛い思いすることだって何も必要なかったのに。俺がここにいてこうして空気吸ってることが、とても不思議だ。

ふと、自分の頭の中を反芻して妙に納得した。

「ああー、それでいいのか」


全部零れてくから、いとしいんだな。

ラケットを握りなおして日吉の背中をばしばし叩くと、怪訝そうな瞳がふってきた。

こぼれていくものが全て愛おしく思えた