『静かなネグレクト』 (愛育社 発行・2012年6月)
カバー写真、扉写真は、金城真喜子さん
大人っぽい感じのメルヘンにしようという想いがあり、この短編集が出来ました。引きこもりや老人詐欺など、現代社会の影の部分を見詰めてみました。
8編の物語について、ひと言
静かなネグレクト
ずいぶん前に、同人誌に『水玉さん』という題で発表した短い話が元になっています。その時には書き切れなかったことを自由に書きました。手直しの際、更にボートのシーンを膨らませ、母親に対する子どもの気持ちをストレートに表しました。下のイラストは、同人誌に発表した時に、わたしが描いたラストシーンの絵です。
魔女の仕事は?
元は、ニューファミリー新聞に載せた物語です。新聞掲載の時には、自分で写した写真も、文章に添えられていました。ラテアートの写真です。これを飲みながら、お話を考えました。
新聞連載の時に、このお話の回は、読者からの反響が多く、うちのパソコンに「実はわたしも魔女なんです」という主婦の方からのメールをいくつも頂き、嬉しかったです。
気球に乗って
書いている途中に題名を『家族のはじまり』にしたのですが、なんとなくノビノビした感じが足りないと思い、こちらにしました。高校生くらいの時に、Jan
Baletの絵が好きで、小さなカレンダーを持っていました。花嫁花婿が描かれた12枚の絵。
この中に、光尾や町絵の家に飾ってある絵の原型があります。携帯でしか喋らない人というのは、今の世の中、本当にいますね。電源をオフにして会話をしてみたら、節電にもなりそうなのに。
声を売る店
房総の『潮川』という駅がモデルです。実際の駅や町はもっと賑やかですが。 真冬の平日に、一人で歩いた町なので、誰ともすれちがわず、心細かったせいで、物語の風景も、ずいぶん寂しくなってしまいました。男でも女でも、声の魅力というのは大きいですね。
誰かの五円玉
新聞の読者投稿欄で、「ロッカーに五円玉」の習慣を知りました。「机に五円玉」は、わたしの創作です.。五円玉一枚から、どんどん幸福になっていくのは、『わらしべ長者』や『長靴を履いた猫』のトントン拍子ストーリーが好きだからでしょうか?
家具屋さんは、うちの近所の店で、看板がほのぼのしています。
人生いろいろあってもピュアな部分を持ち続けるのが理想です。
階段の果ての恋人
カバー写真を作ってくださった金城さんから、一番好きと褒めて頂いた物語です。裏表紙の写真は、この物語を再現してくださいました。 いずみ町の祖父の家は、まさにわたしの祖父の家で、杉並区の和泉町にありました。子どもの頃は、ほとんど毎週末に訪れ、窓のない謎めいた階段で、いとこたちと遊んだものです。
その後、建て替えをして、今は知らない人が住んでいますが、懐かしい家はわたしの記憶の中にひっそ建っています。
ラスト・デート
大学生の姪がカフェ・ベローチェで、アルバイトをしていて、「コーヒーが安く、お客さんの年齢層がわりと高め」というので、琴路さんのデートの場所を、こういった町のカフェにしてみました。 紫のきれいな髪をしたおばあさんって、時々見かけますよね。可愛いおばあさんなら、恋をしても可笑しくないと思います。
あの日の写真
これも、はじめはニューファミリー新聞に載ったものです。犬吠駅の写真があって、そこから物語を作りました。この駅は、ポルトガル風な駅舎に作ってあるそうで、だから絹子の旅先が、ポルトガルになりました。
カメラマンとか作家とか画家とか、そういう人たちは、いくつになっても子どもの部分が残る人が多いような気がします。わくわくするものを見つける目を、ちゃんと持っている。わたしも年相応な常識的な人間になりたいと願いつつ、子どもの心も忘れたくないと思ってしまうのです。
ご興味持って頂けたら、是非『静かなネグレクト』、手にとってみてください。
2012年 6月
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