インフルエンザ
みなさんご存知のインフルエンザについてのお話です。タミフル服用での異常行動(結局、本当のところは明らかにされてはいないようですが)が問題になり、10代の方へのタミフル投与が禁止となってしまいました。これでますます予防が大事になってきたわけですが、インフルエンザの基本的なことと、ワクチンについてご紹介します。
インフルエンザとは
インフルエンザとは、鼻、咽頭、気管支などを標的臓器とするインフルエンザウイルスによる感染症で、11月から4月頃までに流行します。年によって流行のピーク、規模が異なります。罹患率は学童、児童に多く、大人は少ない傾向があります。しかし、インフルエンザは呼吸機能の低下や抵抗力の低下のみられる高齢者で重症化しやすく、死亡者の殆どが高齢者となっています。
感染様式
患者さんのくしゃみ、咳などで吐き出される飛沫を介して感染します。感染様式には「飛沫感染」と「飛沫核感染」があり、感染の多くは飛沫感染によると考えられていますが、感染の拡大(流行)には飛沫核感染が大きく関わっていると考えられています。
飛沫感染:比較的大きい粒子は、患者さんから約1mの距離であれば、直接周囲の人の呼吸器に侵入します。
飛沫核感染:ごく細かい粒子は長時間空気中に浮遊し、また、一旦床に落下した比較的大きい粒子でも、水分が蒸発し乾燥縮小した飛沫核になると、再び空気中に舞い上がり、これが吸い込まれて感染が起こります。
症状
典型的な症状は、突然の38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状と、やや遅れて出現する鼻汁、咽頭痛、咳などの呼吸器症状です。潜伏期間は1〜5日で、大多数の人は特に治療を行わなくても1〜2週間で治癒します。しかし、乳幼児、高齢者、基礎疾患を有する人では気管支炎、肺炎などの合併症を併発したり、基礎疾患の悪化を招くことがあります。
合併症
中枢神経系:熱誠痙攣、インフルエンザ脳炎・脳症、ライ症候群、ギラン・バレー症候群
呼吸器系:中耳炎、副鼻腔炎、クループ、気管支炎、肺炎
心・血管系:心筋炎
肝臓:肝障害
腎臓:腎不全
筋:筋炎
中でも怖いのがこれでしょう。
インフルエンザ脳炎・脳症:発熱に続いて急激に意識障害、痙攣、嘔吐、頭痛などを呈する。年間100〜300例の発症が見られ、そのうち10〜30%が死亡すると推定されている。1歳をピークとして幼児(6歳以下)に最も多く発症する。
インフルエンザワクチンについて
インフルエンザワクチンに含まれるウイルス株は、シーズン前の人々の抗体保有状況、昨シーズンや世界各国のインフルエンザの流行状況を考慮し、WHOの推奨株を参考に、毎年5〜6月頃に決定されます。現在のワクチンには、A型2種類とB型1種類が含まれています。ワクチンは流行するウイルス株を予測して生産されますが、ワクチンに含まれている株とその年の流行する株が異なった場合、ワクチンの効果は減弱します。
ワクチンを接種したにも関わらず、インフルエンザにかかることがあるのは、ワクチンにより血中の抗体は誘導されますが、気道粘膜表面の局所免疫はほとんど誘導できないため、感染そのものを完全に抑えることができないことによります。しかし、ワクチン接種により、発病や重症化を抑制し、合併症や死亡する危険性を抑えられるため、高齢者や基礎疾患を有する人に対してはワクチンを接種することが勧められています。
小児へのワクチン接種
@生後6ヶ月未満の乳児にはワクチンを接種しません。
理由:効果、副反応に関しての研究がまだ少ない。お母さんからの免疫の効果が期待できる。
対策としては、同居する家族がワクチンを接種することで、赤ちゃんへの感染を防ぐ。
A小児については、インフルエンザに感染した際に重症化や合併症のリスクが高くなる場合に接種を行います。
推奨されるのは、(1)気管支喘息などの呼吸器疾患や循環器疾患、糖尿病などの基礎疾患を有する場合。(2)長期間アスピリンを服用している場合。(3)集団生活に入っている場合。
妊婦・授乳婦へのワクチン接種
「妊婦または妊娠している可能性のある婦人には接種しないことを原則とし、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ接種すること」とされていますので、基本的には接種しません。理由は接種に関するデータや結果について、十分集積されていないからだそうです。また、妊娠初期は自然流産が起こりやすい時期であり、この時期の接種は避けたほうがよいと考えられています。
実際のワクチン接種
病原ウイルスは少しずつ抗原性を変えているので、それに対するワクチンも変異するウイルスに対応するように変えています。ワクチンが十分な効果を維持する期間は接種後約2週間から5ヶ月とされていますので、毎年、該当シーズン用のワクチンを流行が予想される時期に接種します。大体、10月下旬から12月中旬に行うのが望ましいとされています。
年齢 | 接種量 | 接種回数 |
1歳未満 | 0.1ml | 2回(1〜4週間の間隔をおく) |
1〜6歳未満 | 0.2ml | 2回(1〜4週間の間隔をおく) |
6〜13歳未満 | 0.3ml | 2回(1〜4週間の間隔をおく) |
13歳以上 | 0.5ml | 1回 |
予防接種を受ける前には必ず予診表というものを書いていただきますが、これは接種を受けることが適当でない人や注意の必要な人を把握するためです。それでは、どんな人が接種を受けられないんでしょうか?
(1)受けることが適当でない人
@明らかに熱のある人(通常37.5℃以上)
A重篤な急性疾患にかかっている人
Bインフルエンザワクチンでアナフィラキシーを起こしたことがある人
(2)接種に際し、注意が必要な人
@心臓、腎臓、肝臓、血液疾患などの基礎疾患を有する人
A予防接種後2日以内に発熱が見られた人及び全身性発疹等のアレルギーを疑う症状が出た人
B痙攣の既往がある人
C免疫不全の診断がなされている人及び近親者に先天性免疫不全の人がいる人
D気管支喘息の人
E鶏卵、鶏肉にアレルギーがある人
インフルエンザの治療
(1)抗ウイルス薬:ウイルスに直接作用して、その増殖を抑えます。発症48時間以内に投与を開始すると効果があります。投与すると、熱が出ている期間は短くなりますが、罹病期間が短くなるわけではないことを覚えておいてください。商品名としては、タミフル、リレンザ、シンメトレル(これはA型にしか効きません)があります。しかし、タミフルは異常行動との因果関係が取りざたされ、10代の患者さんには使用できなくなってしまいました。
では、何を使うか?今年はリレンザが多く処方されるでしょう。リレンザは吸入のインフルエンザ治療薬で、内服によって全身を循環するタミフルとは違い、局所に薬剤が到達するリレンザでは副作用の可能性が低いと言われています。
(2)対症療法:鎮痛解熱剤、咳止めなど。
(3)一般的な注意:安静、睡眠、水分を十分取る。
鎮痛解熱剤の使用について:インフルエンザ脳炎・脳症やライ症候群を引き起こす可能性があるとして、注意が必要な薬があります。(例:ポンタール、ボルタレン、アスピリン、バファリン)日本小児科学会では、「小児のインフルエンザに伴う発熱にはアセトアミノフェン(カロナール)が適切で、非ステロイド性消炎鎮痛薬の使用は慎重にすべきである」との見解を公表しています。