胃・十二指腸潰瘍とヘリコバクター・ピロリ菌感染症
胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の原因としては、ストレス、暴飲暴食、薬剤、タバコなどが挙げられていましたが、近年、ヘリコバクター・ピロリ菌の関与が大きいことがわかってきました。ここでは、ピロリ菌についてのお話と消化性潰瘍の治療について説明します。
はじめに
かつて、消化性潰瘍は、薬を飲んでいるときは症状も治まっていますが、良くなったと思って、内服をやめてしまうと高頻度で再発する病気でした。しかし、ピロリ菌の発見、そして除菌治療が確立されてからは、その再発率も劇的に低下してきました。
1.ヘリコバクター・ピロリ菌って何?
1982年オーストラリアで発見された胃の中に生息しているらせん形で鞭毛を有する細菌です。胃の中は胃酸のため強い酸性状態にあるので、最近は生存できないとされてきましたが、ピロリ菌は尿素を分解してアンモニアをつくり、自分の周りを中性に保つことにより生息できます。
2.ピロリ菌はだれにでもいるの?
日本では40歳以上の70〜80%の人に感染していると言われています。しかし、30歳以下の人はその割合が低くなっています。原因は生活環境(衛生環境)によるところが大きいとされています。感染経路は口からとされていますので、上水道が完備された現在では感染の危険性は少ないでしょう。
3.ピロリ菌がいると必ず潰瘍になりますか?
ピロリ菌感染者のうち、約2〜3%の人が潰瘍になります。逆に、胃・十二指腸潰瘍の人のうち、80〜95%がピロリ菌に感染しています。
4.ピロリ菌と胃がんには関連がありますか?
胃がんの患者さんはピロリ菌の陽性率が高く、胃がんの発生に関与しているのではないかと考えられていますが、まだはっきりとデータはでていません。
5.ピロリ菌に感染している人は全員除菌した方がいいの?
除菌治療が必要なのは、胃・十二指腸潰瘍の人、MALTリンパ腫の人です。慢性胃炎(萎縮性胃炎)、過形成性ポリープは保険適応になっていません。
6.ピロリ菌の検査にはどんなものがありますか?
1)内視鏡を使うもの
顕微鏡検査:胃の組織を取って染色して観察します。
培養法:組織中のピロリ菌を培養して増やします。治療に用いる抗生物質の感受性も調べられます。
迅速ウレアーゼ検査:ピロリ菌の出す酵素の活性を利用して調べます。
2)内視鏡を使わないもの
抗体測定:血液・尿などをとり、抗体を測定します。
便中抗原検査:便の中のピロリ菌の抗原を調べます。
尿素呼気検査:検査薬を飲んで、ピロリ菌が薬を代謝して呼気に出される物質を測定します。
7.治療はどうすればいいの?
PPI(プロトンポンプインヒビター)と呼ばれる抗潰瘍薬と2種類の抗生物質を朝と夕の2回、7日間服用します。この治療の成功率は80%前後と言われており、2割程度の人は失敗してしまいます。最近、二次除菌が保険で認められましたので、抗生剤の種類を変えて再治療ができるようになりました。それでもダメな場合もあります。
副作用として、下痢、軟便、味覚障害、肝機能障害などがあります。
また、除菌に成功した人の5〜10%に逆流性食道炎やびらん性胃炎が一過性に出現することがあります。これは、除菌により、胃の粘膜が改善して胃酸の分泌が正常化するために起こるとされています。
8.除菌に成功したら絶対に潰瘍にはならないの?
ピロリ菌による潰瘍は防げますが、他の原因によって潰瘍になることはあります。
9.ピロリ菌がいなくなったかどうかはいつ、どうやって調べるの?
除菌のための薬を飲み終わって、1ヶ月以上経ったところで検査をします。尿素呼気検査、便中抗原検査が有用です。