財団法人平岡環境科学研究所
自然環境科学研究
Vol. 3 (1990)

【論文 Article】

1 Systematic studies of Asian Aconitum (Ranunculaceae) I. Notes on Aconitum
 rotundifolium and A. zeravschanicum from Tien Shan High Mountains, Central Asia

   [KADOTA Yuichi]

  アジア産トリカブト属植物(キンポウゲ科)の分類学的研究 I.  天山山脈の2種Aconitum rotundifoliumとA. zeravschanicumについて(英文) [門田裕一]

  plant systematics, Ranunculaceae, Aconitum, Sect. Rotundifolia, Tien Shan, insect-pollination

 中央アジア天山山脈で採集したトリカブト属植物のうちAconitum rotundifoliumとA. zeravschanicumについて再記載を行い調査で得た知見を述べた.前者は密を分泌せず構造上の問題もあり,マルハナバチによる送受粉は行われていないと考えられる.後者は特徴的な根の形質などから分類学上の取扱いに再考の必要があると考えられる.


2 Growth characteristics and regeneration manner of the Korean pine (Pinus koraiensis
  Sieb. et Zucc.) on Mt. Changbai, northeastern China

  [OKITSU Susumu]

  中国長白山におけるチョウセンゴヨウの生長特性と更新様式(英文) [沖津 進]

  crown area development, forest geography, height growth, Mt. Changbai, Pan-Mixed Forest Zone, Pinus koraiensis

 チョウセンゴヨウの生長と更新を,エゾマツ,トウシラベと比較して調査した.本種は耐陰性が低いが,樹幹面積が大きく空間的優占性を確保しているので,自らが枯死し広いギャップを作ることで更新を補っていると考えられる.また,他の2種より生長が早いため,少ない定着の機会を確実に生かすことが可能であると考えられる.


3 阿寒湖の珪藻(4. 羽状類−縦溝類: Eunotia, Cocconeis, Achnanthes, Rhoicosphenia)

  [河島綾子,小林 弘]

  raphid diatom, diatom, Achnanthes, Rhoicosphenia, Lake Akan

 前報に続き,阿寒湖から採取した珪藻資料の中から,羽状類の縦溝類4属23分類群について,光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡の写真を示し,若干の考察を述べる.


4 日本の陸生クマムシ類の研究 II. 市街地のクマムシ総覧

  [宇津木和夫]

  tardigrade, urban area, Japan

 日本全域の99都市から集めたコケ類1369試料のうち534試料にクマムシ10属38種(異クマムシ3属18種,真クマムシ7属20種)の生息を認めたので,分布を図表に示すとともに36種について図を示した.


5 亜高山帯域におけるホンドギツネVulpes vulpes japonicaの行動圏と環境利用

 
 [山本祐治]

  red fox, sub-alpine belt, radiotelemetry, home range, habitat preference, activity rhythm

 ラジオ・テレメトリー法によって雌3個体(1個体は育仔中)の行動調査を行った.95%調和平均法で算定した行動圏サイズは178.0-273.1haであり,育仔期の個体は育仔初期に行動圏が著しく縮小するとともに日中の活動が増加する特徴を示した.全般的な生息環境としては,採食の影響から草地が選択されカラマツ植林地が忌避されることが多かった.


【資料 Data and Notes】

6 日本産のケビラゴケ属(苔類)

  [山田耕作]

  species, Radula, Japan, taxonomical notes, illustrated

 日本産ケビラゴケ属22種と1亜種について,亜属の検索表,亜属内の種の検索表,各種についての生態・分布・識別を述べるとともに,図を示した.


7 羅生門(阿哲石灰岩地,岡山県)の蘚類相

  [西村直樹]

  flora, calcareous moss, Rashomon, Okayama

 羅生門から採集された約1,200点の標本を調べ,31科88属128種5亜種8変種を同定したのでリストを示す.植物地理学上特に興味深い種(Didymodon leskeoides, Thuidium vestitissimum, Eurhynchium angustirete, E. latifolium)についてはリスト中に詳細なノートを付した.


8 高尾山(東京都)の蘚苔類 II. 苔類,ツノゴケ類

  [平岡照代,岩片紀美子,大橋 毅,菅 邦子,杉村康司,本郷順子]

  flora, Mt. Takao, Tokyo, hepatics, hornworts

 前報の蘚類に続き,高尾山から採集した標本により,苔類21科35属63種,ツノゴケ類1科1属1種を同定したので報告する.植物地理学的に興味深い種としてカビゴケ,ヒラヤスデゴケ,ナガシタバヨウジョウゴケがある.一部の種についてはカラー写真を掲載した.