財団法人平岡環境科学研究所
自然環境科学研究
Vol. 3 (1990)

【論文 Article】

1 Environmental factors affecting the growth of epiphytic bryophytes and lichens in
  Cryptomeria japonica forest 

 [MINAMI Yoshinori, TAKAHASHI Keiji]

  スギ林内における着生蘚苔・地衣類の生育に関する環境条件(英文) [南 佳典,高橋啓二]

 Cryptomeria japonica, environmental factors, epiphytic bryophytes and lichens, roughness, texture of the tree bark

 山梨県富士吉田市においてスギ樹幹下部における蘚苔・地衣類の分布と基物等の環境条件との関係を調査した.スギの胸高直径が大きくなり生育面積が増加するほど,生育環境が良好となり,種数も植被率も増加していた.また,樹皮が粗いほど種数,植被率とも増加していた.


2 阿寒湖の珪藻(2. 羽状類−広義のFragilaria)

  [河島綾子,小林 弘]

 diatom, diatom flora, diatom taxonomy, Fragilaria, Lake Akan

 前報の試料にさらに他の2地点から採取した試料を加えて観察した結果から,羽状類の無縦溝類珪藻20分類群について,光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡の写真を示し,若干の考察を述べる.


3 Longitudinal pattern in the distribution of diatoms Achnanthes japonica H. Kob. and
  A. convergens H. Kob.in the Kwang River (Kwangchun), South Korea

  
[LEE Jung Ho, GOTOH Toshikazu]

  光川(大韓民国)における2種の珪藻Achnanthes japonica H.Kob.とA. convergens H. Kob.の分布パターン(英文) [李 正鎬,後藤敏一]

 Achnanthes convergens, A. japonica, current velocity, diatoms, distribution, runninng water

 光川でAchnanthes japonicaとA. convergensの分布とその要因を調べた.前者は上流に多く,下流方向の流速の低下と電気伝導度の増加に対応して減少するため,貧腐水性で比較的流れの速い上流部の典型種と考えれられる.他方,後者は上流から河口(汽水域)まで広く分布し,流れに対する要求は低く,いくらか塩分耐性もあると考えられた.


4 日本の陸生クマムシ類の研究 I. 関東地方の市街地
  [宇津木和夫]

 tardigrade, urban area, Kanto region

 関東地方の県庁所在地7都市から蘚苔類・地衣類を採取し,その中に生息するクマムシを調べた.318試料のうち144試料から11種のクマムシが得られた.4種は広域種で,7種は分布地域が少ない種である.同一試料中の他の動物との共存率はワムシ類が20.1%で最も多くセンチュウ類が最も少なかった.また,40試料では2種以上のクマムシが共存していた.


5 ホソオチョウの発育速度と休眠誘起に関する光周反応

  [谷 晋]

 Sericinus montela, developmental speed, photoperiodism, pupal diapause,seasonal adaptation

 ホソオチョウの幼生期の温度と発育得度との関係,休眠誘起に関する光周反応について飼育実験を行った.発育限界温度は12度,有効積算温度は卵期が82日度,幼虫期が195日度,蛹期が109日度であった.休眠は幼虫期の短日により誘起され限界日長は13時間45分であった.高温図表等から.日本のホソオチョウの原産地は韓国の年3化地域であると推察される.


6 セスジチビハネカクシの幼虫について(甲虫目:チビハネカクシ科)

  [林 長閑]

 leaf-litter, Micropeplus fulvus japonicus, larval form

 神奈川県生田緑地の甲虫目調査で,今までに記録のない幼虫を多く得たが,その中からハネカクシ上科Micropeplus属セスジチビハネカクシの幼虫形態について記録する.この属は森林の落葉層に棲息し,菌類の胞子などを食す.幼虫は体節背板と頭蓋の特異な外観,触角・口器・胸脚の形態により,ハネカクシ上科の他の属から容易に識別できる.


7 長野県入笠山におけるテン,キツネ,アナグマ,タヌキの食性の比較分析

  [山本祐治]

 food diversity, red fox, fecal analysis, badger, raccoon dog, Japanese marten

 糞分析により中型食肉類4種の食性比較を行った.テンは雑食性で年間を通し様々なものを採食していた.キツネも雑食性だが小型哺乳類,ノウサギを主要な食物としている.タヌキは特定食物種に依存せず,季節で主要食物が変化し人為的食物の摂取が多かった.アナグマはミミズ類に依存する傾向がみられた.タヌキとアナグマは重複率が高かった.


8 長野県入笠山におけるホンドタヌキの行動圏と分散
  [山本祐治,寺尾晃二,堀口忠恭,森田美由紀,谷地森秀二]

 raccoon dog, radiotelemetry, home range, dispersal, Mt. Nyugasa

 ラジオ・テレメトリー法を用いてホンドタヌキの行動圏と分散を調査した.最外郭法で求めた行動圏は平均609.5haで,交尾期に極端に行動圏を広げる雄成獣も観察された.雄雌とも育仔期,分散期には行動圏が小さかった.成獣は通常2km以内の移動をするが,66.7%の0歳個体は最初の秋から次の春までの間に2km以上の移動をすることが観察された.


【資料 Data and Notes】

9 日本のハイゴケ属 I

  [安藤久次]

 Hypnum, Musci, Japan, classification

 日本産の蘚類ハイゴケ属19種について総説解説する.本稿ではハイゴケ属の概念とその変遷,近縁属との区別,および,分類上重要な形質について記述し,節と種の検索表を示した.また,4種について,それぞれ詳細な解説と図を示した.


10 ICP発光分光法によるテフラ層中の火山ガラスの多元素同時定量(II)

  [高野繁昭]

 ICP, multielement determination, tephra, volcanic glass, Kazusa Group

 ICPを用いて,多摩丘陵の下部更新統上総層群に挟まれるテフラの分析を行ったので,結果を報告する.