【論文 Article】

1 対数目盛を用いた干渉色図表

  [工藤周一]

 interference color, interference color chart, retardation, sensitive color, index of double refraction, determination of mineral

 現在,鉱物の鑑定に使われるミシェル・レヴィの干渉色図表(算術目盛)は,4-5次の干渉色しか表現できない.工藤の干渉色図表(対数目盛)は,1次から30次程度までの干渉色を表現でき,高複屈折鉱物や粒子鉱物の鑑定に有効である.この対数目盛干渉色図表の作成法と利用法を述べる.


2 中国産イタチゴケ属(イタチゴケ科,蘚類)2種における集団内遺伝子多様度の推定

  [秋山弘之,武 素功(WU Su-Kung)]

 allozyme, China, genetic diversity, Leucodon subulatus, Leucodon secundus var. secundus

 有性生殖を行う2種のイタチゴケLeucodon secundus var. secundusとL. subulatusとについて酵素タンパク質多型を用いて遺伝的多様性(Hs)を調べた.前者のHsは同属の他種と大差なかったが,後者のHsは0.009と低い値を示した.これは過去に個体数の著しい減少などで遺伝子プールが小さくなったためと推察される.


3 蘚類さく歯の走査型電子顕微鏡による観察 3.アブラゴケ目 
  [西村直樹,高村宗男]

 peristome teeth, surface ornamentation, SEM observation, Hookeriales, Bryopsida, Bryophyta

 日本産アブラゴケ目蘚類,4科12属22種について,さく歯の表面微細構造を走査型電子顕微鏡で観察した結果を写真とともに報告し,daltoniaceous,hookeriaceousの両タイプのさく歯について考察した.


4 蘚苔類培養法

  [田邊光夫]

 bryophyte, tissue culture, methods

 大量培養を目的とする蘚苔類の組織培養について,著者が実際に実験に用いている基本的な培養技術を紹介する.


5 阿寒湖の珪藻(1. 中心類)

  [河島綾子,小林 弘]

 centric diatoms, diatom, diatom flora, diatom taxonomy, Lake Akan

 阿寒湖の2地点から採取した試料を調べ,約200分類群の珪藻を見出した.その中から中心類16分類群について,光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡の写真を示すとともに若干の考察を述べる.


6 ニシノシマホウキガニの再発見
  [武田正倫,武内宏司,菅沼弘行]

 rediscovery, Xenograpsus novaeinsularis, Tokara Islands, Iwo Islands

 ニシノシマホウキガニは,小笠原諸島西之島新島から新属新種として記載された後,生息が確認できていなかったが,今回トカラ列島悪石島と硫黄列島北硫黄島で同種が確認されたので報告する.いずれも浅瀬の海底温泉の泡が吹き出している場所で,石の下に生息しているのが確認された.指部の先端を覆う剛毛の束で餌を集めるのが特徴的である.


7 栃木県足尾山地安蘇沢地区でのニホンジカ個体群の動態:1984年の異常積雪に伴う大量死とその後 

  [山崎晃司]

 Cervus nippon, Ashio Mts., heavy snow, high population density, mass die-off

 1984年の大量積雪で,安蘇沢地区ではシカの閉じ込め現象が生じ,その個体数密度はピークで121.8頭/km2まで高まった.この影響で,群の大型化,餌の不足などの現象が見られ,最終的には最高密度時の個体数の約36%におよぶ大量死が発生した.死亡割合は当歳仔が最も高く,次いでオス成獣,メス成獣の順と推定された.


8 関東地方平野部における蛾類群集の定量的サンプリング

  [谷 晋,山上 明]

 moths, community structure, species diversity, bio-indicator, food utilization

 神奈川県平塚市北部2地点においてライトトラップによる蛾類群集の採集を行い,日野市と川崎市での調査結果と比較し,併せて食性との関係を検討した.平塚市は種類,個体数とも日野市を下回るが川崎市とほぼ同じで,種多様度は日野,平塚,川崎の順となった.平塚市では季節により群集構造が変わるが,これは植生の変動によるものと推察された.


9 長瀞自然岩石園四十八沼の甲殻類プランクトン

  [平 誠]

 crustacean plankters, copepods, cladocerans, Nagatoro Park

 埼玉県長瀞町の岩畳にある四十八沼(約45の池沼群をもつ)のうち11池沼の動物プランクトンを調査した.ここでは甲殻類プランクトン橈脚類9種と枝角類18種を報告するとともに,特筆すべき4種について考察した.うちThermocyclops dybowskiiは日本新産である.

財団法人平岡環境科学研究所
自然環境科学研究