1 K2TTC法による樹木の葉の中の銅(U)の定量
[平岡正三郎]
potassium tritiocarbonate, wood leaves, copper (II), quantitative analysis
トリチオ炭酸カリウム(K2TTC)と銅(U)を一定時間反応させ,それによって得られた着色物質の吸光度を測定することで物質中の超微量の銅(U)を定量できたので,樹木の葉の中の銅の定量に応用した.今回のサンプルでは,針葉樹は広葉樹に比べて銅の含量が少なかった.
2 多摩丘陵下部更新統連光寺互層産のヤマトオサガニ化石
[増渕和夫,武田正倫]
Tama Hill, Kazusa Group, Renkoji Formation, Macrophthalmus (Mareotis)
japonicus, crab fossil
スナガニ科のヤマトオサガニの化石が関東南部の多摩丘陵下部更新統連光寺互層より発見された.この記録はヤマトオサガニがすでに更新世前期に出現したことを示すものであり,その生息環境は内湾の砂泥質潮間帯であったと考えられる.
3 神奈川県東北部,下末吉台地における更新世後期の火山灰質粘土層の堆積環境
[高野繁昭]
Late Pleistocene, Shimosueyoshi Upland,tuffaceous clay, swamp, gleization
下末吉台地で湿地に堆積したと考えられる火山灰質粘土層を認め,AW型下末吉ローム層とよんだ.その形成期間は約13-6万年前で,形成原因は地形・気候的条件に求めた.また,池辺層の記載を行い,三浦半島の小原台面または引橋面構成層に対比されると考えた.
4 町田市上三輪町に分布する更新統上総層群柿生層から産出した魚類耳石
[大江文雄,増渕和夫]
marine, fish-otolith, Pleistocene, Kakio formation, Kazusa Group
東京都町田市の上総層群柿生層砂質シルトから採集した100個体の魚類耳石について,現生種と比較検討を行った.構成種の大勢は大陸棚以浅の浅海種であるが魚種の構成は貧困であり,亜寒帯系の深海魚も入っている.このことは浅海堆積物のスライディングによる二次堆積での撹乱に起因している可能性が高いと考えられる.
5 駿河湾東部,伊豆半島宇久須沖より得られたコア試料の化石花粉群集
[楡井 尊]
Suruga Bay, core sample, fossil pollen assemblage, paleovegetation, Holocene
駿河湾で採取したコア試料の花粉帯は,下位より常緑広葉樹が優勢でスギが高率を示すU帯と,アカマツ林の発達した温帯の針葉樹が優勢なT帯とに区分された.また,この結果と駿河湾石花海海盆のコア試料の分析結果との比較を行い,大陸斜面での堆積速度を推定した.
6 鶴見川上流における付着珪藻群集と鶴見川沖積層中に含まれる化石珪藻の生態学的比較
[小出悟郎]
Tsurumi river, diatom assemblage, fossil diatom, alluvium, ecological
index
鶴見川上流(町田市)の現生付着珪藻26属78種と川崎市で採取した鶴見川沖積層中の化石珪藻30属173種とを比較した(21属45種が共通).大半は淡水性であるが,層準下部の化石種には海産種があり,河口であったことを推測させる.好流水性種の比率が高いが,現生種では対汚濁性をもつ種が,採取地4地点のうち3地点で約30%を占めた.
7 東京都区内の苔類・ツノゴケ類
[井上 浩]
wards of Tokyo, Hepaticae, Anthocerotae, species list
1890年代にStephani,Makino,Schiffnerが記録した東京都区内の苔類・ツノゴケ類32種を再検討した.14種は現在都区内から消滅し,奥多摩山地に分布を後退させている.18種は生育が確認されているが,うち6種は生育環境が限られ,早晩消滅すると考えられる.また,1900年以前には記録がないが,現在確認できる種は24種である.
8 関東地方におけるキマダラヒカゲ属近縁2種の垂直分布の違い
[谷 晋]
Neope goschkevitschii, Neope niphonica, vertical distribution, habitat
segregation
ヤマキマダラヒカゲとサトキマダラヒカゲの垂直分布を調査した.箱根山と筑波山の年2世代の個体群では標高500m付近を境に高地がヤマキマダラヒカゲ,低地がサトキマダラヒカゲの分布の中心であり,混棲地では前者の方が早く羽化した.多摩川上流域の一世代個体ではサトキマダラヒカゲが少なかった.以上の結果を他地域と比較検討した.
9 ブキット・スハルト保護林の哺乳動物相
[安間繁樹]
East Kalimantan, Bukit Soeharto, mammalian fauna
インドネシアボルネオ島ブキット・スハルト保護林の哺乳動物相を調査し48種を確認,うち42種の種名を特定した.島全域に生息する種を考慮すると,当保護林には約80種の哺乳類が分布すると推測される.この豊かさは,伐採等が一切行われていないこと,樹冠層が連続的に広がっていることなどのためと考えられる.学術的に非常に貴重な森林である.