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 | 「『涼宮ハルヒの憂鬱』読みました」 |
 | 「今は2020年なんですけどねえ。ウィキペによると原作小説は2003年ですか」 |
 | 「ちょっと前に新刊が出るとかで、キンドルが一冊109円で売ってたんだよ。109円だよ。そりゃ買いますよ。ねえ。というわけで、セールしてたのは軒並み買いました」 |
 | 「漫画とかは」 |
 | 「原作小説だけです」 |
 | 「守銭奴だなあ」 |
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 | 「で、全部読んだんですか」 |
 | 「とりあえず『憂鬱』だけです。全冊となるとちょっと時間かかりますよねえ」 |
 | 「でもラノベだし」 |
 | 「ラノベいいですね。気楽に読めるので休憩時間に読むのにうってつけかもしれない。ただ名作であるほど先が読みたくなるものなので、時間が限られているときには向かないかもしれない。面白くないものは読む意欲自体が沸かないので、この辺はジレンマですね」 |
 | 「名作は休みの日に気合を入れて読むとか」 |
 | 「気合を入れて読むのって、娯楽としてどうなのですかね。疲れを癒すためのもので疲れるわけで」 |
 | 「癒しのためだけのものではないでしょう」 |
 | 「いいものは生きる糧にはなりますね。でも疲れますからね。読まなきゃ、と思うと、かえって読まない。責任感でしょうか。重圧があると、逃避してしまう。流し読みでいいやくらいのほうが、読み始めるのにいいし、純粋に楽しめる。映画なんかも、もっと見たいんですけどねえ。二時間と思うとどうしても億劫で…。話が脱線しているな」 |
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 | 「ハルヒです。どうでしたか」 |
 | 「先に断っておくと、『憂鬱』に関しては再読になります。前に一回読んだことがあります」 |
 | 「じゃあなんで改めて読んだんですか?」 |
 | 「折角なので最初から、と思ったんですね。さっきも言ったように、セールしてたから買ったので。前読んだのは十年くらい前ですかね。あらすじは覚えてました。細かいところは忘れていましたが」 |
 | 「十年前でも発売から随分経ってますね」 |
 | 「流行には飛びつかない性なので。大人気作、というかラノベの代表作みたいな作品ですよね。ラノベって、今はそうでもないかもしれないけど、当時新しいジャンルとしてすごい勢いがあった。その中でもハルヒはけん引役というか、嚆矢というか、とにかくトップランナーの一員だった。一位だったかも知れない」 |
 | 「ラノベを読んでみたかったのですか?」 |
 | 「どうだったんでしょう。ラノベを読んでみたかったのかもしれないし、ハルヒを読んでみたかったのかもしれない。あんまり覚えてないです。ラノベはあんまり読んでないですね。『戯言シリーズ』くらいでしょうか。差別意識はないつもりですが。大体巻数が多いので億劫なのかもしれない。やっぱり脱線していますね」 |
 | 「当時読んでみてどうでしたか」 |
 | 「まあいいんじゃない、くらいでしょうか」 |
 | 「それは……褒めているんですか?」 |
 | 「いや、そんなもんですよ。感動した! 目が洗われました! これで私の人生ハッピーだ! なんて、余程のことがない限り言いませんって。特に小説は……いや、小説でも読んでいる最中わくわくして仕方がない作品もあるか……。まあでも、面白かったです、くらいの感想が普通でしょう。普通って、やっぱり褒め言葉じゃないか……。うーん、楽しむために読むのだから、面白かったと思えれば十分だと思いますけどねえ」 |
 | 「とにかく十分満足できたと。だけど続巻を読むほどではなかったと」 |
 | 「やっぱり億劫になったんじゃないでしょうか。お金もかかりますからね」 |
 | 「守銭奴ですねえ」 |
 | 「大体私の傾向として、二巻目を読むと全部読む傾向がある。二巻目を読むと面白さが定着して、安定を求めて次々読んでいくんじゃないでしょうか。さっき言った『戯言シリーズ』とか『S&Mシリーズ』なんかは、一巻目を読んでからちょっと空いて二巻目を読んで全部読んだっていう経験があります。二巻目を読むかどうかは、気まぐれですね」 |
 | 「『ハルヒ』も気まぐれ次第では読んだ可能性もあったと」 |
 | 「気まぐれ次第の人生です」 |
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 | 「なんか本題に入るまでずいぶん時間がかかりますが、今回読んでみてどうでしたか」 |
 | 「読みながら思ったことをそのまま言いましょう。“ここにも竜がいた”」 |
 | 「『天地明察』からの引用ですね。渋川春海の成長した本因坊道策への評ですか」 |
 | 「ちょっと前に流し読みしていたんで、その影響が」 |
 | 「この場合の竜っていうのは」 |
 | 「作者の谷川流様ですね。いやー、すごいすごい言いながら読んでいました。それが言いたかっただけなのに、なんか今回駄目ですね。話が脱線しすぎる」 |
 | 「感想ですので、気楽にいきましょう」 |
 | 「とにかくすごいと思ったんですね。で、なにがすごいと思ったのか。それを今回考えてみようと思ったんですが」 |
 | 「なにがすごいと思ったんですか?」 |
 | 「人間はどうやら、感じることは直感的に感じるだけであって、なぜそう感じるのかまでは考察してみないとわからないようにできているようです。というか、だから感じたことは感じたその感じだけが全てであって、その感じた理由を説明することに意味はないというか、不可能なんじゃないかと思います。何かを感じた時、人は感じた理由を説明したいと思うんだけど、そう思うのは、感じた理由がわからないままだとなんとなく不安なので、とりあえず何らかの理由をつけたいと思う。だからとりあえず何らかの説明をつけるんだけど、だからつけられたその説明は、安心するための言ってしまえば何でもいい理由であって、本当の理由そのものではないかもしれない。ごちゃごちゃして何言ってるのかわからないことをいってすいませんが」 |
 | 「なんとなくでわかっていただければ」 |
 | 「感想文全否定するようなことをいったわけですけど、最初に言いたかったのは、人間は感じたことに関してはちゃんと考えないとその感じた理由はわからないよ、ということなんですね。話しているうちに違う結論になっちゃたんだけど」 |
 | 「『憂鬱』の感想を続けましょう」 |
 | 『憂鬱』を読んでいて、すごいなあ、と思ったんですね。で、なにをすごいと思ったんだろうなあって」 |
 | 「世間的にはキャラクター人気がありますね」 |
 | 「長門さんとか人気すごいですよね。クーデレの走りでしょうか(綾波のほうが先でしょうね)。ハルヒもみくるちゃんも朝倉さんもキョン妹も、なんならキョンも小泉も人気ありますよね」 |
 | 「ザ・ラノベって感じでしょうか」 |
 | 「あとは文章がいいとかあらすじがいいとか。『ハルヒ』についてよく言われるのは、SFとしてよくできている、なんて評でしょうか。なんか上から目線なのが気になりますが、しばしば蔑まれがちなラノベを持ち上げるための言葉なので気にしないでおきましょう。どれも頷けますが、今回は違うことを考えました」 |
 | 「違うことですか」 |
 | 「登場人物の思考や行動が納得できるんじゃないかなって。ハルヒにしろキョンにしろ、置かれた状況に対してする行動がすごく納得できる。だから彼らがすごくリアルというか、息づいて感じられる」 |
 | 「この人物ならこう動くよなあってことですか」 |
 | 「そういうことです。読みながら、すごく自然なんですね。違和感がない。あるいは、物語のためにキャラが動かされている感じがない、ということでしょうか。舞台があってキャラクターがいて、あとは君たちが自由に動いて物語を作りなさい、ということができている。これは実はかなりすごいことなんじゃないかと」 |
 | 「面白い物語を作るためには、例えばヒロインが危ない目にあったり、恋のライバルが現れて三角関係になったり、そういうメソッドがあるわけですね」 |
 | 「そういう盛り上げるための手法を否定するわけではありません。エンタテインメントなんだから、読者を楽しませないといけないし、楽しませるためには物語に起伏をつけるなどしなければなりません。だけど物語に起伏をつけるためにキャラクターや世界を捻じ曲げることはどうなのかと。逆に言えば、自然と物語に起伏ができるようなキャラクターや世界観を設定するべきなのではないかと思います」 |
 | 「『ハルヒ』はそれができていたと」 |
 | 「できていたと思いますね。こういうと舞台設定が終わると作者のすることはなくなるのかといいたくなるかと思いますけど、それは違うと思いますね。作者は書き進めながら、慎重に慎重に、世界観やキャラクターを壊さないようにしながら書いていたと思うんですよね。たぶん書きながら、これはイケる(面白いものが書ける)、と思ったはずなんです。だけどちょっと間違うと壊れてしまう。そういう、書き進めたい高揚と間違えてはいけない慎重と、撞着がないまぜになったことで生まれる迫力を、読み進めながら感じました」 |
 | 「そういうことは、『ハルヒ』特有のことなんでしょうか」 |
 | 「どうでしょう。案外物語のためにキャラクターを捻じ曲げる作品なんてないのかもしれません。探してみないとわかりませんが、探すつもりはありません。ただどうであれ、物語とキャラクターの高度な均整を達成することは難しいことは確かだとは思いますので、それを達成した作品と作者様には敬意と称賛を惜しむべきではないと思います。見事でした」 |
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 | 「長くなったし、もういいですか?」 |
 | 「ほんと、無駄に長くなってしまいました。疲れたんですが、もう一つだけ。読みながら思ったのは、ノスタルジー、ですね」 |
 | 「ノスタルジー。過去を思い出しましたか?」 |
 | 「ハルヒは自分でもそれがなんであるかわからないような面白いこと、を求めるわけですが、キョンもそのことには理解を示したように、多くの人がハルヒの思いには共感すると思います。やっぱりキョンがそうであるように、成長するにつれてそうした不思議は起こり得ないと悟るのだし、不思議のない世界で生きていくしかないと諦めるのですけどね。ハルヒはエキセントリックなキャラクターなんだけど、根底にあるのは普通の人の持つ想いなんだなと」 |
 | 「大人になってわかる作品の魅力ですか」 |
 | 「ついでに付け加えると、成長するとわかることなんだけど、現実もまだまだ不思議なことだらけですからね。だから世界中の大学で研究が続けられているのだし、芸術家は血反吐を吐きながら作品を作るのですから。だからハルヒもキョンの言うように部活にでも入って有り余った青春の行動力を消費するべきなんですよ。もちろんハルヒもそんなことは百も承知の上で、諦められないのだし、妥協できないというところなのですけど」 |
 | 「現実と妥協できなかった天才が世の中を作ってきたってことは、作中でキョンが述べていましたね」 |
 | 「ちゃんと作者もそういうことはわかっているんですね。それでも妥協できないところにハルヒというキャラクターの特異性がある、ということなんでしょう。そういうハルヒの姿が語られるのが一章で、次章から様々な主要人物が登場していきハルヒにまつわる秘密も明かされ、ってことなんですけど、だから一章はそのままノスタルジックな短編として通用するんじゃないかという、すごく赴き深い導入です」 |
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 | 「こんなところで終わりですか」 |
 | 「感想を書くのは疲れますねえ。大した量でもないはずなんですけどねえ」 |
 | 「今後は『ハルヒシリーズ』を読み進めていく?」 |
 | 「どうでしょうねえ。億劫で。時間も労力もかかりますので。セールで、漫画は買わなかったとか書いたんだけど、買っけば良かったかなあ、私ももっと色んな事に手を出したほうがいいのかなあと思ったり、でも時間もお金もないしなあと思ったり」 |
 | 「守銭奴だなあ」 |
 | 「いやあ、お金は大事ですよ」 |
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