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 | 「川島雄三監督『幕末太陽傳』視聴しました」 |
 | 「幕末の品川宿の遊郭を軽妙に渡り歩く男の姿を描きます」 |
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 | 「いやー、これはすごい映画ですね」 |
 | 「元々評価の高い映画ということですが」 |
 | 「世間の評価の高さも頷けます。古い映画だし、白黒で、ほとんど俳優も知らない人ばかりで見わけもつかないんですけど、それでも楽しめました」 |
 | 「やっぱり映像は今から見るときつい感じがありますけど」 |
 | 「きついですね。音声も聞き取りづらいです。だから正直、ちゃんと筋を理解しているわけではないんですけど、途中からどんどん引き込まれていきましたね」 |
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 | 「視聴の初めはちょっときついなあって」 |
 | 「最初はねえ、どうも捉えどころがないというか、ちょっと群像劇っぽいところがあって、一体どういう筋書きが行われているのか、戸惑うところがあります。当時の人から見るとそうではないのかもしれませんけど、俳優も見分けがつかない、セリフが聞き取りづらいというところも相まって、ちょっとよくわからないなという感じがありました」 |
 | 「そこから引き込まれていったのが…」 |
 | 「やっぱり主人公が活躍し始めてからですね。具体的にいうと、文無しなのが発覚して借金を返すために働き始めてからです。そこまで捉えどころのなかったキャラクターが、活き活きと動き出してきます。機転が利いて、抜け目ない人物で、強欲なんだけど愛嬌があって憎めない。遊郭に働く人々も視聴者もどんどん引き込まれていきます」 |
 | 「主人公の魅力がわかってきて、興味を引かれていったのですね」 |
 | 「キャラがわからないと、視聴者としてはどうとらえていいか戸惑ってしまいますね。無銭飲食をしているようだけど、詐欺師なのか、開き直っているだけなのか、はたまた実はお金を持っているのか、よくわかりません。キャラが動き出して、物語の軸も捉えることができるようになったと思います」 |
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 | 「とはいえ、そこまでの描写も決してつまらない、意味のないものではないんです。遊郭のにぎやかな様子を描いているし、遊郭にかかわる様々な人物の姿を描いています。様々な人間模様が、後に主人公と関わるようになった時に伏線として活きてきますね。同時に、彼らよりも一癖も二癖もある主人公の個性をより際立たせる効果もあったように思います」 |
 | 「遊郭と主人公が、日常とアウトサイダーとして相互に輪郭を際立たせる存在として働いているのですね」 |
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 | 「咳の描写が味わい深さを生んでいますね。コメディなんですけど、ただの馬鹿話ではなくさせる一つのファクターとして、主人公その他が時折する咳が働いていると思います。明るい雰囲気の中に、なんとなく暗い影を差し込んでいて、独特の緊張感が漂っています」 |
 | 「影があるからこそ光も強く輝くという話でしょうか」 |
 | 「どうでしょうね。混然一体となっているといった方がいいかもしれません。人間世界で行われていることなんて、光も影もないまぜになっているものではないでしょうか。咳…特に主人公の咳は怖い咳の仕方をしているので、死を連想させるのですけど、生きた現実の中では、生も死も常に隣合わせで存在しているわけです。だからこの作品でも、陽気なんだけど死のにおいもある、だからなんとなくリアリティや緊張感が生まれているのだと思います」 |
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 | 「リアリティという意味では、主人公は決して善人ではないところも挙げられますね」 |
 | 「非常に有能な人物ですけど、善意のみで何かするということは無いですね。多くの場合、金銭的な見返りを求めています。しかし、ただの金の亡者かというと、どうもそれだけではないような行動もします。愛嬌も相まって、どうにも魅力的に感じる人物です」 |
 | 「遊郭という場所も、善悪定かでない場所ですね」 |
 | 「決して褒められた場所でないことは確かですけど、そこで働く人間たちが悪人だらけなわけはない。そもそも人間一つとっても、悪行を為すこともあれば善意で動くこともあります」 |
 | 「人間世界の日常に、善も悪もありませんね」 |
 | 「監督様の意図がリアリズムを描こうとしたところにあったかどうかはわかりませんけど、だから遊郭という舞台設定は、なかなか上手い設定だと感じますね」 |
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 | 「古い映画ですけど、名作といわれるだけの映画でしたね」 |
 | 「なんといっても主人公が魅力的です。演出も監督様の気概が伝わってくる力作です。素晴らしい映画でした」 |
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