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 | 「スティーブン・ダルドリー監督『愛を読む人』視聴しました。」 |
 | 「かつてアウシュビッツで働いていた女性と15歳のころ彼女と肉体関係を持った男性の物語です」 |
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 | 「うーん」 |
 | 「面白くなかったですか?」 |
 | 「面白くなかったは言い過ぎですね。ただあんまり合わなかったなあとは思います」 |
 | 「(それを面白くなかったっていうんだよなあ)」 |
 | 「演出的には、なにが言いたいのかよくわからないカットが多かったように思います。思わせぶりなだけで、なにを読み取ればいいのかわからないというような。まあわかりやすいだけが映画ではないと思うので、それはそれでいいんでしょうけど、ちょっとストレスが溜まりますね」 |
 | 「この辺は視聴者との相性もあるでしょうね」 |
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 | 「ストーリー的には、テーマが良くわからない。とっ散らかっているように思います」 |
 | 「アウシュビッツで働いていた女性ハンナの話ですが」 |
 | 「最初は15歳の少年マイケルの話が始まるのです。大人の女性との恋…恋とも言えないようなただれた関係があって、彼女の失踪によって突然その関係も終わる。というストーリー展開からすれば、少年の冒険と成長の話かと思われるわけです」 |
 | 「時間が少し飛んで法科学生になったマイケルの前に、偶然ハンナが現れます。ゼミで傍聴に行ったアウシュビッツについての裁判の、被告人の一人がハンナだったのですね」 |
 | 「アウシュビッツといえば人類の犯した大きな過ちの一つであり、それをテーマにしたフィクション作品も数多く作られています。かの人類史における大きな汚点は、ただそれを行った集団に対する怒りを湧き起こさせるだけでなく、人間存在に対する洞察を惹起させるなテーマなのですね」 |
 | 「だからこの映画もアウシュビッツで行われた<犯罪>について深く掘り下げられるのかというと…」 |
 | 「どうも大きく掘り下げられることは無かったですね。ハンナの秘密を描くことと、その秘密をハンナが固守することによって起こる悲劇を起こすための仕掛けに過ぎなかったように思います。ハンナは自らが戦時中行ったことを反省するわけではないし、マイケルもアウシュビッツで行われたことに思いを馳せる様子はありません」 |
 | 「<思わせぶり>なカットがないでもないですけど、アウシュビッツのことを思っているのだと解釈するにはちょっと飛躍が必要かもしれません」 |
 | 「だからその後のストーリー展開を考えても、この映画のテーマはマイケルとハンナの関係性、大雑把に捉えてしまえば愛なのでしょう。しかしマイケルのハンナへの思いを愛もしくは愛に類するものと捉えるにはちょっと抵抗があります」 |
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 | 「マイケルはハンナの秘密を知っていながら、ハンナが秘密を守ることによって起きる悲劇を止めようとしませんでしたね」 |
 | 「ハンナが秘密の暴露をよしとしなかったからですけど…。それでも話し合う余地はあったのですから、ちゃんと説得はするべきだったと思います。そもそも秘密について話す機会もなかったのだから、ハンナがどういう心情で秘密を話そうとしなかったのか、マイケルが勝手に推察しているだけなのですから。なぜ一度話に行かなかったのでしょう」 |
 | 「面会に行かなかったのはちょっと不自然でしたね。マイケルにリスクがある行為なわけでもないですから」 |
 | 「<思わせぶりな>態度からして、もしかしたら何も言わずに消えたハンナへの怒りがあったのかもしれないけれど、だとしたらその後の行動からがおかしなことになります」 |
 | 「その後マイケルはハンナへ朗読のテープを送るようになりますね」 |
 | 「それでハンナも生活に潤いを持つようになるのですけど、でもマイケルがするのはそれだけで、自分の言葉を話すことは無いし、ハンナの手紙に返事を書くこともない。やっぱりマイケルはハンナに復讐心を抱いていたのでしょうか。そう解釈するのも違和感がありますが…」 |
 | 「マイケルの心情と行動がよくわからない」 |
 | 「ハンナもハンナで、あれほど秘密を保持しておきたかったのであれば、最初からそれを解消するよう努力していればよかったと思うのですけどね。そのための時間はあったと思いますが」 |
 | 「奔放な性格で、あまり真面目な人間でもなかったようですから」 |
 | 「15の少年と関係を持つ人間がまともなわけはないんですね。どうにもあまり同情する気に起きないんですねえ」 |
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 | 「一人の男の人生の喪失の話と捉えるのはどうでしょう」 |
 | 「マイケルの人生は色々上手く行っていないですからねえ。ただ彼の人生が捻じ曲がったのは、ハンナのせいではないですよ。貫くにしろ吹っ切るにしろ、心情をはっきりさせるべきだったと思います。うじうじとどっちつかずの行動を見るのは、ちょっとイライラしますね」 |
 | 「ただ、リアルな人間ならはっきりしない性格や行動の人もいますから、ある種のリアリティがあるといえるのでは?」 |
 | 「そうですね。だから全然ダメな映画というわけでもないですね。カタルシスはないですが。たまにはこういう映画を見るのもいいんじゃないでしょうか。あ、あとですね」 |
 | 「はい?」 |
 | 「ケイト・ウィンスレットが出演している映画を見ると、彼女がいつも脱いでいるような気がするのは、気のせいでしょうか?」 |
 | 「あなたがそういう映画ばかり見ているせいじゃないですか?」 |
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