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 | 「ああああああああ! もうっ!」 |
 | 「うるさいなあ。なに?」 |
 | 「『サイコパス3』見ました。その感想!」 |
 | 「テンション高いなあ」 |
 | 「視聴直後です。直後のテンションのままでいくよ!」 |
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 | 「でなに。サイコパス見たの? 君はいつもサイコパスしか見ないな」 |
 | 「忙しいんだよ。忙しいけど、いつ無料が終わるかわからないからね。つっても、劇場版から一か月くらいは開いたのかな」 |
 | 「忙しい、ねぇ。で、どういうテンション?」 |
 | 「いやねえ。最終話(八話)見るまでは、何だこのくそは、っていうつもりだったんだよ。だけどねえ、八話ですよ。第八話はねえ、良かった」 |
 | 「順を追いましょう。全体としては駄目でしたか?」 |
 | 「駄目だねえ。駄目駄目だねえ。正直、第八話以外は時間の無駄ですね。時間の無駄はちょっと言い過ぎか。成立していないわけじゃない、たぶん世に出回るだけの水準はちゃんと超えてる。でも、単に個人的な感想だけでいうなら、面白くなかった。これに尽きます。そんで、余暇の楽しみで視聴している以上、個人的な感想だけが意味がある」 |
 | 「それが最終話で逆転した?」 |
 | 「というわけではないです。第七話まではくそだと今でも思う。だからつまり、第八話で今までの内容がひっくり返るような内容が明かされたり、あるいは全ての伏線が繋がるカタルシスがあったりということはないです。ただ単純に、単話として第八話の出来は良かったと思う」 |
 | 「でも一話完結のアニメではないよね」 |
 | 「そもそも第八話自体は次、おそらく既に決まっていたであろう映画への繋ぎの話でしかないんだけどね。いや、でも良かった。とにかく全体に流れる緊張感が素晴らしい。取り立てて事件らしい事件が起こるわけではない(もちろん多少の起伏はある)にもかかわらず、いつどこで次の瞬間には破滅的な何かが起こってもおかしくないような、淡々としている中に不穏な気配が画面の中に常に漂っている。つまり演出の妙味ということなんだろうけど、これはちょっと示唆的であり、エンタテインメントの面白さとは内容如何ではなく、内容の見せ方次第なのだということなのかもしれないし、あるいは面白さを感じさせる部分とは、物語の結果の部分ではなく、結果を予感させる部分なのだということなのかもしれない」 |
 | 「(めっちゃ早口で言ってそう。)見えないお化けが一番怖いみたいな話ですね」 |
 | 「そういうことです。もちろん、話の妙味で魅せる方法もあるでしょうけど。お化けの例えでいうと、グロテスクな映像で生理的な嫌悪感を催させるとか。これは演出がどうこうという話ではない(もちろんそれでもどう見せるかは大事なんだと思う)」 |
 | 「最終話は演出が良かったですか」 |
 | 「最後だけは良かった。とりあえずそれだけはね、言っておきます。はい」 |
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 | 「悪かった話もしましょうか。最後以外は駄目ですか」 |
 | 「駄目ですねえ。さっきも言ったように、水準はちゃんと超えていると思いますよ。だから面白いな、と思える部分もちゃんとありました。でもねえ、逆に言えば、水準さえ超えておけばいいだろう、的な、うーん、作り手の執念みたいなものはあんまり感じられなかったですね」 |
 | 「全体的に振り返りますか?」 |
 | 「ごめんなさい。最初のほうはあんまり覚えてないです。というか、えーと、あのね、サイコパス3は大まかに最終話を除いて三つのエピソード(三つの事件)から成り立っているんですね。で、私は、三つ目の事件(宗教のやつ)はちょっと内容が頭に入ってこないですね、っていうつもりだったんです。でも違いますね。全部頭に入ってこないです」 |
 | 「あなたの頭が悪いせいじゃないんですか?」 |
 | 「こればっかりはね、そうかもしれないとしか言いようがないですね。初見で全ての内容を把握できる頭脳を持った人間なら、面白く感じられるのかもしれない。人間は自分に合ったものを面白いというしかないですから。推理小説とかでも、初見で犯人が分かる人は楽しいのかもしれないし」 |
 | 「推理小説なら逆じゃないですか?」 |
 | 「そうですね。私は本格結構好きですよ(最近読んでないなあ)。話が逸れましたね。サイコパス3は、最初のほうから内容がぼやけた作りだったんじゃないかと。例えば、“ビフロスト”の描き方がわかりやすいんじゃないかと。三人の謎の人物が謎の場所で謎の会話をするシーンが所々に挿入されるんですが、謎だらけで訳が分からない。会話にしても作品独自の用語が満載なので、視聴者としては何一つ理解できない。完全に置いてけぼりにされる」 |
 | 「そういう趣向じゃないんですか」 |
 | 「そうなんです。たぶんそういう趣向もあり得る。つまりそれらしい様子を垣間見せておいて、物語が進むにつれて、あああそこのシーンはそういうことだったんだ、とわからせていく。伏線が回収された時の爽快感でしょうか」 |
 | 「爽快感がありましたか?」 |
 | 「ね。どうなんでしょうね。一応、“ビフロスト”なる謎の組織が起こる事件を影で操っているということは明かされるんですけど。“ビフロスト”の構成員には“コングレスマン”と“インスペクター”と“狐”という階級があって“コングレスマン”は一番上の階級で…ってこれが明かされるのも最終話じゃないか。そりゃ、最終話だけが面白かった、と言いたくもなるよなあ。いや、そこまでの描写でもなんとなくはわかるんだけど」 |
 | 「最終話に爽快感があったらなら成功じゃないですか?」 |
 | 「まあ多少はねえ……。成功とは思わないですけど」 |
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 | 「キャラの魅力はどうですか」 |
 | 「そうそう、主人公二人もちょっと言いたいことがあるんだよ。まず私の妄想を言おう。コンビの話なんで、バディものですよね。バディものの王道って、かみ合わない二人が事件を通してちょっとずつ理解しあって絆を深めていくってものじゃないですか。でもこの二人って、最初から信頼度マックスなんだよね。だからさあ、世界設定を描くためにも、主人公は新人警官にして、バディはベテランにして、最初はウマが合わないんだけどなんやかんや、とか妄想してたんですけど」 |
 | 「ええと、あなたがあらすじを構成するなら、という話ですか」 |
 | 「はい」 |
 | 「(やべーなこいつ)」 |
 | 「途中で、あ、これサイコパス1じゃんって。そりゃこの設定にはできないよあなあって」 |
 | 「朱ちゃんと狡噛さんは案外ウマが合ってましたけどね」 |
 | 「ウマが合ってなかったのは宜野座さんか。だから宜野座さんのポジションの人が朱ちゃんを見守る立場で、狡噛さんのポジションの人が朱ちゃんとかち合って、次第に信頼関係を築いていくんだけど、結局最後はあんな感じで別れるって筋のほうが、面白……私好みだったかもですね。いやでも、王道過ぎて陳腐か」 |
 | 「また話が逸れてますね」 |
 | 「サイコパス3ね。この二人は信頼度がマックスなんで、あんまりドラマが生まれない。ああ、だから、執行官の信頼を勝ち取っていく様子は、結構面白かったですよ。ドラマっていうのは、人間関係の変化、なのか? というより、人間と人間の(エモーショナルな)ぶつかり合い、なんでしょうね。これは必ずしも、対立、ではなくてね。イグナトフさんが廿六木さんの身内を殴ったことで、廿六木さんはイグナトフさんを信頼するようになるんだけど、これは自分を蔑む身内をイグナトフさんが殴ってくれたことで、廿六木さんの監視官への敵愾心という感情が揺るがされているわけです。ぶつかり合い……というより、揺らぎ、か。ああ、こう考えていくと、最終話が面白かった理由もよくわかる。最終話は主人公コンビが緊張状態になりますからね」 |
 | 「信頼関係が揺らいでいるわけですね。でもその揺らぎに緊張感を覚えるのは、そこまでに二人の信頼関係を描写しているおかげではないですか?」 |
 | 「ええ。だから最終話の評価は最終話だけの評価ではないですよ(たぶんそこだけ見ても面白いとは思うけど)。続きものですから、全話あっての最後の面白さであるとは思っています」 |
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 | 「あーもうそろそろ眠いですね。たかが感想なんだけど、もう結構長くしゃべっちゃいました」 |
 | 「まだ言い足りないことがありますか」 |
 | 「いやー、主人公二人の過去はもうちょっと明示すべきじゃなかったのかとか、あと宗教の事件の描き方は詰め込みすぎでいくら何でもひどいとか、言いたかったんだけど、まあいいか。大体上でいったことの延長です」 |
 | 「はい」 |
 | 「あとね」 |
 | 「まだ何か」 |
 | 「朱ちゃんがね。朱ちゃんがね狡噛さんとね、結構親密にしゃべってたんだよね。もう……なんですかね。それだけで嬉しかったですね」 |
 | 「結局あなた朱ちゃんが好きなだけなんじゃないですか」 |
 | 「なんでしょうね。なんで私はあんなに朱ちゃんを応援してしまうんでしょうね」 |
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 | 「で、映画があるわけですが、見るんですか」 |
 | 「どこをどう見たって、映画へ続く、な終わり方でしたからね。物語で出てきた謎は何一つ解き明かされていない状態ですから。まあでもね、今更この製作者様たちが全ての謎を明かしてくれるなんて期待しませんよ。どうせ朱ちゃんが収監されている理由もわからないし、嫌疑が晴れて解放されるなんてこともないんでしょう。期待はしません。でもたまに面白いと思うこともあるので、そういうことです」 |
 | 「最後まで朱ちゃんじゃないですか」 |
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