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 | 「庵野秀明総監督『シン・エヴァンゲリオン劇場版」 |
 | 「『序』『破』『Q』に続くエヴァ新劇場版シリーズの第四作にして完結作です」 |
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 | 「えーとね、まず言わせてください」 |
 | 「はい」 |
 | 「ふざけんな!」 |
 | 「いやいやいやいや」 |
 | 「いい加減にしろ! ふざけんな!」 |
 | 「いやいや。それはいい意味でですか?」 |
 | 「悪い意味ですよ! もうなんなんですかこれは」 |
 | 「第一声がそれは誤解されますよ」 |
 | 「あーそうですね。じゃあいいです。最高の作品でした。アニメーション、いえアニメーションだとか国内だとかどうとか言わず、古今東西全ての創作作品における一つの到達点ともいえる、最高の作品でした。これでいいですか。じゃあ解散!」 |
 | 「お疲れさまでした」 |
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 | 「で、なにを怒っているんですか?」 |
 | 「怒ってはいないですけど、もうなんですか。モヤモヤする」 |
 | 「それは?」 |
 | 「ラストシーン…、まあなんだ、カップリングの話ですね。もうねえ、なんでああなるんですか」 |
 | 「キモオタだ」 |
 | 「だってさあ…。別に誰と誰がくっつこうがどうでもいいですけどさ、なんでわざわざ描写するんですかね」 |
 | 「自分の好きなヒロインが主人公とくっつかなかったとかそういう話ですか?」 |
 | 「いやいや、そんなにエヴァに思い入れないですから。でも、やっぱりストーリーラインからこうなるのが収まりがいいっていうのがあるんだから、そういうのをわざわざ崩す意味が分からない」 |
 | 「エヴァなんて卒業してお前たちも前を向いて歩けよっていう、監督様からのメッセージじゃないですか?」 |
 | 「そんなもん、余計なお世話ですよ。大体オタクたちは『まごころを君に』からめいめい勝手に立ち直って好き勝手やってましたよ。それを新映画作って無理やり引き戻したのはそっちじゃないですか。引き込んで取り込んで突き放して、いくら何でも勝手すぎやしないですかね」 |
 | 「そうしないと、エヴァが終わらなかったんでしょう」 |
 | 「それでも、描写せずに各人が勝手に想像してくれ、で良くないですかね。最後なんですから、それこそ十数年にわたるシリーズの最後なんですから、終わった! 良かった! で終わりたかったですよ。オタクのメンタルなんて脆弱なんですよ。なんで最後くらい、気持ちよく終わらせてくれないんですか。誰と誰をくっつけてくれって話じゃないですよ。そうなる必然性がわからないって話で。ああ、モヤモヤする」 |
 | 「エヴァは最後までオタクの心をかき乱す存在だったということでしょう」 |
 | 「ふんだ。いいですよもう。監督の心はこれでスッキリしたでしょうさ。だったらそれでもういいですさ。ふんだ」 |
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 | 「でまあ、内容については何も言いませんよ。相変わらずわけわからなくて理解していないですし」 |
 | 「カプ論争も内容についてのことのように思いますけど、まあいいでしょう」 |
 | 「さっきも言ったけどアニメーションの、あるいはジャンルを超えて創作物全体を通しての一つの極致だと思います。見ることのできる環境があれば見ておくべき作品じゃないでしょうか」 |
 | 「わけわからない描写も楽しみましょう」 |
 | 「一つの才能という意味でも、一つの才能の下に集った大勢の努力という意味でも、人間とはここまでのことができるのかと嘆息してしまう作品です。一つ一つの描写に圧倒されます。こういうものを見ることができるのが人生の価値かもしれませんね」 |
 | 「絶賛ですね」 |
 | 「ただまあ、『Q』よりはとんがってなかったかもしれないですね。多少はわかりやすいというか、わからないんだけど、バランスはとれていたと思います」 |
 | 「完結編なので、色々な謎が明かされていきますからね」 |
 | 「多少明かされたところで何も理解できないんですけどね。考察をするとか設定を集めるとかするか、あるいは理解することをあきらめるかする必要はあると思います。ああ、多分、テレビシリーズや旧劇は見といたほうがより楽しめたんだろうと思います。この新劇場版、リブート作品だとは捉えないほうがいいですね。続きですよ」 |
 | 「前のは見てないんですよね」 |
 | 「断片的に見た……けどあまり覚えていないんです。当時から訳の分からない作品でしたし。でも、なんとなく思い返してみて、やっぱりちゃんと完結させたかったのは監督の方だと思うんですよね。昔の視聴者のモヤモヤを晴らそうというためではなく」 |
 | 「確か、救いのない終わり方でしたよね」 |
 | 「『まごころを君に』でちゃんと完結していたとは思うんですけど、監督様も不本意なところがあったんじゃないでしょうか。今回、特にこの映画は、エヴァを終わらせるという強い意思が込められていたと思います」 |
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 | 「色々書いてきて多少は冷静になりましたけど、やっぱりなんだかなあという思いは残りますね」 |
 | 「最高の作品なだけに、スッキリした気持ちになれないのが本当に悔しいですね」 |
 | 「ああいう終わり方じゃないとちゃんとしたメッセージにはならないというのはわかりますけど…。でもなあ、力の込められた素晴らしい映画なだけに、ラストシーンのことばかり思い返さざるを得ない状態っていうのは、本当に悔しい。なんでこんなことになるんだ。もっと戦闘シーンとか、キャラの心情とか、色々思い返して余韻に浸りたかった」 |
 | 「これも監督様の意図通りなんでしょうねえ。弱いオタクの心くらいはわかっているでしょうから」 |
 | 「最高の監督だからというより、創作者なら誰でもそのくらいのことはわかっているでしょう。分かっていてそういう描写をするわけです。全くねえ。これだからエゴイストってやつは…」 |
 | 「でも楽しかったでしょう?」 |
 | 「監督様が満足したならもうそれでいいです。私は弱いオタクですけど、いつも通り、適当に消化して前を向いて生きていきます。楽しかったです。最高の映画でした。ありがとうございました」 |
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