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 | 「あー、うー」 |
 | 「……」 |
 | 「あー、うー」 |
 | 「…………」 |
 | 「あー、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』視ました」 |
 | 「はい」 |
 | 「……あー、うー」 |
 | 「『序』『破』に続く作品ですね、はい」 |
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 | 「すいません。帰っていいですか」 |
 | 「……どうぞ」 |
 | 「(止めろよ)えっと、言っていいですか。なんだこれ。なんだ、これ」 |
 | 「……はい」 |
 | 「いやーもうね、わけわからん。何もわからん。置いてけぼり過ぎる。わからん。わからん」 |
 | 「難解、というより視聴者に与えられる情報が少なすぎますね。前回からだいぶ状況が飛んでいて、説明がされないまま状況が進んでいきます。わけがわからないままブンブン振り回されているうちに終了、という感じです」 |
 | 「すいません、帰っていいですか」 |
 | 「どうぞ」 |
 | 「では」 |
 | 「ではでは」 |
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 | 「内容について一割も理解できていないんですけど」 |
 | 「そうですね」 |
 | 「ただ、多分観客のその状態は制作者様の意図通りの状態だろうとは思います。おそらく理解させようとしていないんでしょう」 |
 | 「そのくらいには監督様への信頼感はありますね」 |
 | 「視聴者の理解を振り切るものを作ってみたかったんでしょう。まったく、優秀な創作者というものの業は底知れないものがあります」 |
 | 「訳の分からないものを作ってみたいという欲求ですか。しかもクオリティは途方もなく高い」 |
 | 「怖いのは、話の整合性は多分ちゃんと取れているということですね。だから、ちゃんと考察すれば理解は可能なんでしょう」 |
 | 「筋書きの矛盾はないし、裏設定に即した物語が展開されている」 |
 | 「それこそ、テレビシリーズ以来膨大に為されてきた考察から作品世界をちゃんと理解していた人たちなら、むしろ設定が明かされてスッキリするくらいのことになるのかもしれません。私は無理です。何もわかりません」 |
 | 「無理ですか?」 |
 | 「私はオタクじゃないということです。オタクに憧れていたこともありましたけど、オタクじゃなくていいです。オタクの方々は頑張って解き明かしてください」 |
 | 「実際、ちゃんと考察したら楽しいんでしょうけどね」 |
 | 「謎は深まるばかりです」 |
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 | 「一応言っておくと、見たことを後悔することは全くないです。見てよかったです。楽しかったと断言します。最高の経験ですよ。ただ、一ミリも理解できていないだけのことで」 |
 | 「それでいいんですか」 |
 | 「いいんじゃないですか。振り回されるだけ振り回されて、なかなか経験できることじゃないですよ。それにクオリティはものすごく高いですから」 |
 | 「映像も音も演技も何もかも一級品ですよね」 |
 | 「カメラワークとかセリフのキレとか間の取り方とか物体や背景の造形とか、やっぱり演出的なところもすごいなあって思うんですよね」 |
 | 「最高の映像体験です」 |
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 | 「私は2021年に視聴しているわけですけど、当時映画館に足を運んだ人たちは、ここから十年近くにわたって待たされるとか鬼畜ですか」 |
 | 「ちゃんと制作されるまでは何かの間違いで制作されないなんてこともあり得るわけですから、かなりヤキモキしたでしょうね。ちゃんと制作されて良かったですね」 |
 | 「これを書いている時点で、私はまだ『シン~』は見ていないので、制作されて良かったと言えるものなのかどうかもわからないんですけどね。この監督様ならどんなものでも可能性があるのが怖いところです」 |
 | 「ぶっちゃけ評判がいいことくらいは知っているんですけどね」 |
 | 「そもそも完結しているんですかね。“ゾク・シンエヴァンゲリオンに続く”とか…、いやないな」 |
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 | 「もっかい言いますけど、楽しかったですよ」 |
 | 「良い鑑賞体験というのは理解することではなく圧倒されることですから」 |
 | 「ここまで振り切られる作品に出合うことはそうありません。素晴らしいです。訳の分からない、最高の映像体験でした」 |
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