|
 | 「庵野秀明総監督『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』視ました」 |
 | 「『序』の続きです」 |
|
 | 「やべぇなこれ」 |
 | 「第一声」 |
 | 「やべぇはこれ」 |
 | 「はい」 |
 | 「いやーやばいっすね。凄すぎますね。凄まじいですね。なんて作品でしょうか。最大級の賛辞でもまだ足りないくらいじゃないんですか。いやーもう、凄い!」 |
 | 「絶賛ですね」 |
 | 「うんもう、凄い。凄いとしか言いようがない。どんな言葉も受けた感覚の前では陳腐なものでしかないですよ。凄まじいものを見た。圧倒された。それだけです。それが全てです」 |
 | 「はい、じゃあもう感想はやめましょう」 |
|
 | 「もう内容は何も言いません。『序』でも言いましたけど、散々語られてきた作品ですし」 |
 | 「でも何か言いたいことがあるんですか」 |
 | 「うん。やっぱりねえ、言葉では言い表せない、とにかく凄まじいとしか言いようがないものを、視られることは幸せだなって。生きていると、色々な作品に、人が作った創作物に出会います。多くのものが商品として製作され、産業として成立するうち、受け手がどういうものを求めているか、どう作れば購買者は喜んでくれるか、買ってくれるかといったノウハウが洗練されていき、陳列棚に並べられた<商品>はどれをとっても概ね満足できる代わりに想定外の衝撃を受けることもないということになってしまっています」 |
 | 「決してオリジナリティがないという話ではなく」 |
 | 「受ける感じとして、大体同じ感覚、同じような満足が得られるということです」 |
 | 「それはそれで幸せなことですけどね」 |
 | 「悪いことではないです。でも人間の欲望とは際限がないものですね、幸せな状況というのは長く浸れば飽きるものなのです。もっと訳の分からないものが見たい。圧倒的な衝撃を受けたいという欲求を湧き上がります」 |
 | 「そうするとエヴァが作品として破綻した訳の分からないもののように聞こえますけど」 |
 | 「そう聞こえたなら誤解です。エヴァはエンタテインメントとしてむしろとてつもなく洗練されています。楽しいです。しかしエヴァのすごいところは、今までに世の中に公開されてきた作品群の中でエンタテインメントとして洗練されてきた造形を、常に壊そう壊そうとしているところです。だから視聴者はいつものあの感じかな、と思ったところでいつも次の瞬間には裏切られるということになるのです」 |
 | 「常に創作の中で自己破壊が伴っているのですね」 |
 | 「破壊して、しかも破綻させない。破壊しても次の瞬間には常にエンタテインメントとしての輪郭に回帰している。だから破綻しない。これはとてつもなくすごいことをやっているんじゃないかと思うんですけど」 |
 | 「“破”なんですよね」 |
 | 「まさしく“破”ですね、この作品は」 |
|
 | 「もう一つこれがすごいと思うところは、これが映画であるというところですね」 |
 | 「映画というと?」 |
 | 「小説や漫画じゃないという意味です。小説や漫画は、一人(あるいは少人数)で創作するものです。映画は、エンドロールを見ていていつも嘆息するところですけど、多くの人間が関わっています」 |
 | 「多くの人間が携わるということは、それだけ多くの意見が生まれるということですね」 |
 | 「全員の意見を聞き入れては破綻するだけですから、監督という一つの意見が取りまとめるわけですけど。それでもなかなか、波風が立たないように少しずつ取り入れて妥協して丸くして、ということになってしまうものです」 |
 | 「そしてありふれた作品が生まれる」 |
 | 「エヴァは完全に一つの個性の下に作られた作品だと思います。そうでなければこれだけ尖ったものはできないでしょう。視聴者を振り払ってしまうことを厭わない、圧倒的な切れ味です。多分庵野監督の独裁でやったんだと思いますけど、どうでしょう」 |
 | 「船頭多くして船山に登るということですね。もちろん監督のもとに上手く色々な個性を取り入れた作品もありますけど」 |
 | 「この作品は、全て庵野さんの個性だと思いますね(実際どうだか知りませんけど)。よくここまで一つの個性の下にまとめられたものだと思います。映画という業界が培ってきたノウハウとして全権を監督に委ねなければならないという土壌もあると思いますけど、それでもなかなか、ここまで徹底された作品もそうないんじゃないかと思います」 |
|
 | 「いやまあ、大げさにいうと生きててよかったという程の衝撃を受けました」 |
 | 「凄まじい才能に触れた時間でした」 |
 | 「人間にはここまで到達できる力があるのかと、圧倒される作品でした。人ってすごいんですね。こういう作品に触れると、感謝したくなりますね。何に感謝するのかわかりませんけど」 |
 | 「大いなるものに触れた感触です」 |
 | 「ありがとうございました」 |
|