徒然『ヱヴァンゲリヲン新劇場版：序』

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ヱヴァンゲリヲン新劇場版：序


	「庵野秀明総監督の劇場アニメ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版：序』視ました」
	「かつて一世を風靡した９０年代を代表するアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』を同じ監督が新たに劇場アニメ化した作品ですね」
	「“ヱ”ヴァンゲリ“ヲ”ンなのか…。旧作は普通の表記なのに」

	「これ私なんか言っていいんですかね？」
	「どういうことですか？」
	「いや、かつて日本中のオタクたちに熱狂の中でありとあらゆる言説で語られてきた作品ですから…」
	「今更いうことがない？」
	「ちょっと気が引けます。私が何か疑問に思ったとしても、それはかつて既に誰かが疑問に思ったことで、しかも既に誰かが答えを出していることだったりするのではないかという。しかも私が疑問に思ったことの百倍くらいは謎があって、既に誰かが問うて誰かが答えを出して、そういう積み重ねを経てきた巨大な作品ですから」
	「＜エヴァ＞という名前はもう作品単体を表すだけの言葉ではなく、一つのムーブメントとして想起される作品であるということですね。ファンでない人間が軽々しく語ることはちょっと気後れする豊饒さがあります」
	「内容について何か言うのは止めましょう。無理です。近寄りがたいです。ちょっと高すぎます」

	「なんか懐かしかったですねえ。『序』は大体昔テレビでやった内容そのままだったんですかね」
	「テレビシリーズは見たんですか？」
	「見たような見てないような。全部は見てない、のかな。よくわかりません。昔のことだし。映画は見たような気がします。映画って、多分ちゃんと見てない人が見て理解できるような内容ではなかったと思うんですよね。『まごころを君に』かな。なんでテレビシリーズちゃんと見てない人間が、『まごころを君に』見ることがあるんだよって感じですが」
	「見たけど熱狂的なファンにはならなかったと」
	「昔ですからねえ。子供の頃って、色々自由が利いたわけではないですし。すごいなあとは思いましたよ。でも世のオタクたちが綾波やアスカに熱狂するようには、熱狂しなかったんでしょうね。いやだから、『序』を見て、ちょっと昔を思い出して、思うのは、なんで私エヴァファンにならなかったんだろうって」
	「今更ながらに」
	「明らかに私が好きそうな作品なんですけどねえ」
	「住んでいる場所の問題じゃないですか？　完全なリアルタイムで見られたわけではないですよね」
	「地方住まいの悲しさです。でもレンタルとか、いくらでも方法はあったわけですからねえ。大人になってからでも、見ようと思えば容易に見られたわけです。だから、世代の問題もちょっとあるかもしれないですね。ブームに乗るには少し幼稚すぎました」
	「大人になってから今更乗っかってもなあと」
	「ただ、世の中にある何らかの作品を知るとき、ほとんどの場合後発になるのは避けられないことですからね。購読している雑誌の新連載として見つけるとか、あるいはよほど敏感に新しいものへのアンテナを張っているのでもない限り、耳に入ってくるのは既にブームになっているものばかりですから」
	「既に多くの人間に語られているからこそ、遠くにいる人間の耳にも入ってくるのですね」
	「だから私の気質なんですね。いまいち何かの作品に熱狂できない。ベクトルの向きは明らかに世のオタクたちが向いている方向と同じなんだけど、ベクトルの大きさは世のオタクたちが持つ熱量には全然足りない。私はオタクじゃないんです、これは、ちょっと寂しくて言っているんですけどね」

	「子供に人類の運命背負わすなよ……、いえ、内容について言うのは止めましょう。なんにせよすげえ作品だと思いましたよ。エンドロール中に変な笑いが出てましたもん」
	「すげえなあって」
	「まだ序なんですけどね。でもすごい。色々すごいですね。細部への作りこみもすごいし、世界観のケレン味もすごいし、間の取り方もすごいし、セリフの切れ味もすごい。ちょっとこういうものが世の中にあるのは人類の文化史の勝利だと、そんな風に賛嘆してしまいたくなるすごさですね」
	「まだ序なんですけどね」

	「なんにせよ、ちょっと懐かしさを感じることができたのと、それ以上に一つの才能に触れることができた二時間弱でした」
	「思ったんですけど、今からでもオタクになればいいんじゃないですか」
	「今からですか？」
	「後発だからと斜に構えるのは良くないですから」
	「まあ、そうですね。今更という言葉は人生をつまらなくさせる悪魔の言葉ですね」
	「今更という言葉は言うべきじゃないですよ。だから今からエヴァオタクに」
	「まあオタクになれない気質ですから。綾波もアスカもかわいいんですけどねえ」

２０２１年１１月１３日記述

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