|
 | 「アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡 )』視ました」 |
 | 「かつてキャラクター映画で一世を風靡した俳優が、再起をかけて演劇に挑むお話です」 |
 | 「なんだこのタイトル。変なタイトルだ」 |
 | 「褒めています」 |
|
 | 「うーん」 |
 | 「第一声がうなり声ですか」 |
 | 「評価に困る作品ですね。なんだこんなもの見せやがってという気持ちもあれば、凄い映画だなあという気持ちもあります」 |
 | 「気持ちの良い映画ではないですね」 |
 | 「ブラックユーモアなのか、と途中まで気づかずに見てましたので、趣味が悪いというか、気持ちの悪い映画だなあと思ってたんですが、いや、やっぱり気持ちの悪い映画ですね。こういう趣向もあるんですかね」 |
 | 「あまりこういうものを見る経験がないですからね」 |
 | 「<こういう趣向>なんていわれたくないんだろうなっていうのは、伝わってきますけどね。誰もやったことのない、新しいものを作ろうとしているのだろうと思います。クリエイティビティは、やっぱり伝わってきました。ただ、うーん、やっぱり気持ち悪かったですね。うん、気持ち悪い」 |
 | 「では、気持ち悪かったということで」 |
 | 「“気持ち悪かった”が、褒め言葉かどうかはわからない、というところですけど」 |
 | 「あまり経験したことのない感覚を経験することは出来ましたね」 |
 | 「エンタテインメントは視聴者を気持ちよくさせるもの…いえそんな決まりはないですね。これもエンタテインメントでしょう。いやあでも、気持ち悪いですわ。ちょっと吐きそう」 |
 | 「吐かないでくださいね」 |
|
 | 「ではどういうところが気持ち悪かったかですけど」 |
 | 「うーん、やっぱりまずは登場人物たちですね。露悪的とでもいうんでしょうか。どうも良心的な人物がいないし、平気で人間の醜い部分をさらけ出してくるので、どうにも見ていて気持ちが悪いです」 |
 | 「カタルシスを得られるようなところがなかったですね」 |
 | 「あと、演出的にも、ちょっとマジックリアリズム的なところがありながら、特に説明されることもなく話が進んでいくので、そういう点でも、違和感を持ちながら視聴を続けていかなくてはいけません。これはもちろん、そういう趣向なんだと思います」 |
 | 「説明してほしいわけでもないんですよね」 |
 | 「例えば超現実的な描写は主人公の主観であって、第三者視点では現実的な動きがされている、なんて描写があれば、ああそういうことか、くらいは思ったかもしれないでしょうけど、そんなことをしてもつまらないだけですからね。これでいいですよ。でも気持ち悪かったなあ」 |
 | 「ちょっと気持ち悪いと言い過ぎですね」 |
 | 「ちょっと気持ち悪いと言い過ぎですね」 |
|
 | 「あまり解釈しないほうがいいというか、解釈を確定しようとしないほうがいいと思うんですけど、テーマ的には、生みの苦しみ、でしょうかね」 |
 | 「主人公は名声を得たくて四苦八苦しますね」 |
 | 「ただどうも曖昧な感じになるのは、主人公は案外今も名声があるところですね。だから単に、また有名になりたいだけなのかどうかは、ちょっと簡単に捉えていいのかは迷うところです」 |
 | 「“バードマンの人”として、今でも道を歩けばサインを求められたりしていますね」 |
 | 「“かつての人”という評価を払拭したいということなのでしょうけど、ちょっと解釈を進めて、“新しいもの”を作ろうともがいていたんじゃないか、という気もします。観客の入りは良かったみたいだし、単にお金が欲しいとか、有名になりたいというだけではないように思えるんですよね」 |
 | 「新しいものを作ろうともがく、という点では、この映画自体にも重なるテーマですね」 |
 | 「ちょっと二重写し的に感じられますね。そういう趣向だったかどうかは知りませんけど」 |
|
 | 「役者さんは、みんな良かったですね」 |
 | 「みんな良かったんじゃないでしょうか。露悪的な描写を、違和感なく演じていたと思います。みんな、まあ嫌な人間たちなんですけど、でも人間ってこういうものだよなと思わせる存在感がありました。見ていて気持ちのいいものではないですけど」 |
 | 「マイケル・キートンのキャリアと主人公のリーガンの設定とが二重写しになっているらしいですけど」 |
 | 「キートンはあまり聞いたことがなかったので、私にはよくわからないですね。向こうの人やバットマンファンには、面白い趣向だったのでしょう。存在感のある役者さんだなとは思いました」 |
|
 | 「映画界と演劇界の確執みたいなものが描かれていましたけど、それもブラックユーモアの一つなんでしょうけど、そういうものなのでしょうか」 |
 | 「どうもこの辺は、業界人が内輪で盛り上がる話のように思いますけどね」 |
 | 「興行でやる以上はどれだけお金が儲かったかが全てで、<低俗な>映画が演劇界の<本物の>演技に劣る、みたいな言説はおかしいだろうと思いますけど」 |
 | 「その辺もブラックユーモアなんでしょうね」 |
 | 「低俗だろうと子供だましだろうとお金儲けは大事ですよね。うーんでも、興行ではなく芸術と捉えるなら…でもだったら観客を入れる必要もないのではという気も…。うーんなんにせよ、生きていかないと芸術も作れないし、生きるためには大体の場合お金を稼がないといけないので、お金儲けを軽視するのは良くないと思いますね。まあ、あまり突っ込んで考えるのはやめましょう」 |
 | 「ブラックユーモアの一つということで」 |
|
 | 「全体的に新しいものを作ろうとする気勢に満ちた作品だと思いました。ただそうした“新しさ”も相まって露悪的なストーリーの気持ち悪さも感じました」 |
 | 「気持ち悪い、は必ずしもネガティブな評価ではないというところで」 |
 | 「必ずしもポジティブな評価でもないですけどね。娯楽なんだから、楽しい思いをしたいですよ」 |
 | 「でもたまには嫌な気持ちになるのもいいでしょう」 |
 | 「そういうものですかね。あとちょっと思ったのが、“新しいもの”を古さを持ったもの(かつてのバットマンの役者)で作ろうとしたっていうのも、面白いところですね」 |
 | 「新しさを追い求めることは、古さを顧みないことじゃない」 |
 | 「新進の気概に満ちた、強い作品でした」 |
|