おおば風土記 「天穂日命天下りの涼み殿伝説」
お釜にのった神さまの物語
むかし、遠いどこかに高天原という神さまの国があったころ大庭は近くの村々で鉄は採れる し、美しい玉も作られていたし、田や畑では麻やひえもよく育ち、意宇川には水草がよりよく茂 り川の魚が活き活きと泳いでいるとても豊な国でした。村の人々は一人残らず田や畑を耕して 暮らしていました。そして、氏神さまの「かもすさま」を大切にお守りして毎日一生懸命に働いて いましたから、大庭の村はどこよりも楽しく平和でした。 ところが、ある日のことです。神主さんがとても畏れ多い様な顔をしてお宮の山の方へ駆け上 って行きます。
「どうしたんだ。どうしたんだ」
「何か大変な事でも起こったのだろうか」 と、村人たちは手にした鍬や鎌を置いて心配そうに囁きあっています。 「みんな、みんな、だいじょうぶだよ。心配しなくていい。高天原という遠い国から神さまがいらし ゃるということだ。早くお迎えしなくては」 と、神主さんははあはあ息をはずませながらかけのぼって行きました。 涼みどのの松林の二かかえもある大松のふもとには、もうそれはそれは大きな鉄のお釜に お乗りになった神さまがお着きになっていらっしゃいました。 「これはこれは」 と、神主さんは恐れ入りながら早速神さまを丁重に大庭のお宮へお迎えしておもてなしをしまし た。お疲れになっていた神さまはその親切を本当にお喜びになりました。 「わたしは、あめのほひのみことといいます。高天原から天子さまのお使いとしてやって来まし た。この国がどうしてこんなに豊で平和なのか高天原の天子さまにお伝えしなければなりませ ん。そして、出雲の国の人々が天子さまの言い付けに従う国の仲間になるようにお話に来たの です」 とおっしゃいました。 「でも、こんなに幸せにくらしている人々がどうしてそれを喜ぶでしょうか」 と、神主さんは恐る恐る申し上げました。すると、その日から天穂日命は大庭の人々といっしょ にお暮らしになって、ゆっくりと人々のくらしの様子を御覧になることになさいました。 それから、どれだけ日かずを重ねたのでしょうか。天穂日命がお考えになっていらっしゃったよ りもっともっと住みよい大庭でしたからとてもここが気にいってしまいました。天穂日命は自分 が天子さまのお使いでここにおいでになったことも、天子さまへ出雲の国のようすをお知らせす ることも、すっかり忘れておしまいになりました。 「わたしも村人と一緒に国をもっと幸せにするために役立つことにしよう」 と、ついにこの国に住みついておしまいになりました。 そこで、天穂日命が乗っていらっしゃったお釜は村が栄えるお釜として、今でも大庭のお宮に お祭りしてあるそうです。そして、毎年十二月の十三日になるとそのお釜のお祭りがあるそうで す。そのときには神主さんがとても珍しいと言い伝えられている百番の舞を舞っているというこ とです。 深々と天之岩座苔清水 伝承地それほど人は訪ね来ず
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