猫の庭で
-マリオの一人娘-
猫のアルベルトは 今日もすやすやとお昼寝中 |
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あんなに暑かった あきらめの悪い夏の日差しも |
この頃は どこか遠慮しがちな感じ |
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街のあちこちが やわらぐ光とともに |
どことなく 落ち着きを見せはじめているね |
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そういえば 今日のお昼 |
ピッツェリアで アルベルトは見慣れない人を見かけたんだ |
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いつものように |
お気に入りのマリオに おねだりをしに行くと・・・ |
裏口に 怪しい人影が |
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背丈は マリオよりも少し低い感じ |
マリオは背の高い方じゃないから 割と小柄ってことだね |
恰幅の良いマリオは 背よりも大きく見えるらしい |
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髪の毛と瞳の色は アルベルトの毛と同じネッロ |
顔立ちはあまり彫りの深くない そう とても優しい感じ |
あれは きっと東洋人 ジァッポネーゼだよ |
*ジァッポネーゼ(Giapponese) : 日本人 |
おや なにやらお店の中が騒がしいぞ |
優しい顔のジァッポネーゼは なにやらソワソワしだした |
しきりに中の様子を窺おうとしてるみたい |
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すると マリオが若いシニョリーナと一緒に出てきた |
なんだろう? すごく不機嫌そうだぞ? |
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実は マリオには一人娘がいるんだ |
名前は オリエリ たしか22歳になるはず |
アルベルトは オリエリにもよく御馳走をもらっているのだ |
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いつも とても素敵な笑顔を振りまいている |
マリオご自慢の お店の看板娘がオリエリなのさ |
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どうしたのかなマリオは? |
オリエリ越しに ジァッポネーゼにまくし立てているね |
うーん どうも収まりがつきそうもない |
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結局 アルベルトはピッツァをもらい損ねた |
すっかりふてくされて おきまりの昼寝場所へと逆戻り |
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あやや? |
広場に さっきのジァッポネーゼがいるね |
しょぼくれた様子で 木箱の上に腰を下ろしてる |
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イヤミの一つでも言ってやろうと |
アルベルトはジァッポネーゼの足元へ |
すると 気のよさそうな青年はそれに気がついたのか |
ニコリと微笑んで見せ 持っていた紙袋からなにやら・・・ |
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魚? どう見ても魚のカタチだ! |
アルベルトは 喜んで「それ」に飛びついた |
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★△■@★・・・・っ?! |
イキオイ良くかぶりついたアルベルトは 飛び上がった |
後ずさりして しきりに前足で口元を撫でてるね |
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実は アルベルトが食べようとしたのは |
ジァッポネの焼き菓子の一つで 「タイヤキ」というらしい |
しかも・・・焼きたて 猫舌(笑)にはたまらないよね |
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とりあえず すぐにミルクを飲ませてくれたけど・・・ |
アルベルトには 踏んだり蹴ったりの一日だった |
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明日にはマリオの機嫌が直っていると 良いのだけれど |
アルベルトは そう祈りながらの昼寝なのだった |
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ところが・・・ |
年頃の娘をもつ父親の癇癪は 始末に負えない |
悪童・チェザーレの悪戯の方が まだましなぐらいだ |
*チェザーレ(Cezare): アルベルトの天敵。第1話参照のこと |
ジァッポネーゼは 毎日マリオの店に通い |
どうやら弟子入りを頼んでいるようなのだけれど |
娘のオリエリが ジァッポネーゼの味方をするので マリオがヤキモチを妬いて ややこしくなる |
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そんなわけで |
アルベルトはこの頃 とっても腹ペコな毎日なのである |
だってお店に行っても 誰も御馳走してくれないんだもの |
マリオはずっと怒ってばかりだし |
オリエリは自慢の笑顔も消えて 毎日泣いてばかりだし |
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お腹の空きすぎで すっかりイライラのアルベルトは |
ある日 とうとうマリオに直談判?に行くことにした |
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今日こそは なにか御馳走してもらうまで帰らないぞ! |
まるで 駄々っ子か労働者のストライキのようだ |
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息せき切って アルベルトがお店に駆けつけると |
マリオは 新しくメニューに加えるピッツァを焼いてる様子 |
オリエリは・・・留守のようだね |
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まずは ピッツァのお皿を作ろう |
ホイッホイッと手で回し 上手に伸ばしてお皿を作ろう♪ |
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伸ばしたお皿にソースを塗ろう |
真っ赤な真っ赤なポモドーロ らせんを描いておへそから♪ |
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美味しい美味しいプロシュート ちょっとだけつまみ食い |
マッシュルームを並べたら アーティチョークにオリーブも |
そろそろ年頃 モッツァレラ とろけた時が楽しみさ♪ |
*プロシュート(Prosciuto crudo): 生ハム |
オリーブオイルにパルミジャーノ |
たっぷりかけたら さぁオーブンへ♪ |
*パルミジャーノ(Parmigiano reggiano): パルメザン・チーズ |
250度のオーブンで 縁に焦げ目が良い感じ |
チーズがとろけてアツアツだ 気を付けて召し上がれ♪ |
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ちょうどピッツァが焼き上がったところへ |
またしても あのジァッポネーゼが登場だ 懲りないね |
でも 今日は少し様子が変だ 元気がないね |
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マリオは相変わらずの 頑固ぶり |
大事なオリエリを盗られまいと 一歩も引かぬ気構えだ |
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やれやれ 今日こそは御馳走にありつけると思ったのに |
アルベルトは 腹ペコのピークで不機嫌になってきた |
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目の前に 美味しく焼けたばかりのピッツァがあるのに! |
もう・・・・ガマンできないっ! |
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アルベルトは マリオめがけて飛びかかった |
正確には ピッツァにかぶりつこうとしたんだけどね |
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とその時 ジァッポネーゼが・・・・ |
マリオを庇おうと アルベルトの前に飛び出た |
・・・のは良いが 躓いてテーブルの上の皿をひっくり返した |
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飛び散るピッツァ 慌てるジァッポネーゼ 怒り叫ぶマリオ |
・・・・・ピッツァがなくなって途方に暮れる アルベルト |
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突然 ジァッポネーゼが泣き出した |
泣きながら 散乱したピッツァを一口囓る |
泣きながら 実は明日この街を離れなくちゃいけないと |
ジァッポネに帰らなくちゃ行けないんだと |
マリオみたいなピッツァ職人になりたかったと 泣いた |
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その日は マリオもジァッポネーゼも アルベルトも |
そして 買い物から帰ったオリエリも みんなで |
しょぼくれた夜を過ごしたんだとさ |
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それから 半月がたって・・・ |
ジァッポネーゼは お店に来なくなっていた |
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でも 何故かオリエリには あの太陽のような笑顔が |
みんなを幸せにする笑顔が 戻っていたのさ |
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アルベルトには もちろんその理由は分からない |
でも 時折郵便屋さんが綺麗なメールを運んでくるたび |
オリエリが 一番嬉しそうに微笑んでいるのを |
アルベルトは お店の裏で良く見かけるようになった |
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ま とは言っても アルベルトにとっては |
オリエリが 以前よりもたくさん御馳走してくれるのが |
何よりも嬉しいのだけれど・・・ |
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そして 御馳走で満腹のアルベルトは |
今日もまた この街の何処かで |
秋の気配を感じながら やっぱりお昼寝中なのでした |
おしまい
猫の庭で。続きは、次のお話で。
編集後記
はいっ♪「猫の庭で」も、これで5話目になります☆
なんとか、4話目から2ヶ月でリリースできましたね(笑)。
今回は、なんと猫や犬ではない人間のゲストでした。
今回の料理はマリオの店が舞台なので、やっぱりピッツァ。
ピッツァ・カプリチォーザという名前のピッツァです。
プロシュート(生ハム)やチーズの女王・モッツァレラ
パルメザン・チーズ等をふんだんに使った味が楽しめます。
ほら、チーズのとろける匂いがしてきませんか?
イタリアンでパスタやピッツァは珍しくもないですが
やっぱり、アツアツの焼きたてピッツァは良いですよね♪
2002/05/20 Masato HIGA
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