猫の庭で
-コーギーのリサ-
猫のアルベルトは ただいまお昼寝中 |
・・・かと思えば いつものお昼寝場所にアルベルトの姿がないね |
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アルベルトは? |
何処にいるのかな? |
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いたいた |
フォルマッジョ専門店の軒下で すやすやと |
南部の街は もう夏の盛りを迎えて 日差しがきつい |
アルベルトも日陰を求めて 移動なんだね |
*フォルマッジョ (formaggio):チーズのこと |
ところで この街にはジァッポネーゼも住んでいる |
表通りから広場へ抜ける小路にも |
先週 ジァッポネーゼの一家が越してきた |
*ジァッポネーゼ
(giapponese):日本人 |
一人息子のシンイチ少年は 大の犬好き |
この街でも さっそく犬を飼い始めた |
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シンイチの新しいパートナーの名前は “リサ” |
ちっちゃな ちっちゃな ウェルシュ・コーギー |
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シンイチの行くところ 何処へでもついて行きたがる |
そんなリサを 少年はとてもお気に入りだ |
ドアを出る足元にじゃれついて 散歩をねだるリサに |
困惑しながらも 何処か嬉しそう |
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今日も 日本人学校へ行こうとするシンイチに |
リサが “連れていってっ♪”のおねだりをしている |
けれどシンイチは 今日も ダメだよと“待て!”のポーズ |
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仕方なく リサはリビングのソファへ戻っていった |
窓の向こう 見えなくなっていくシンイチ |
リサは寂しそうに 見送るだけ・・・・ |
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と・・・その時 ドアの開く音が |
シンイチ?! リサは走り出した |
残念 郵便が届いただけだったようだね |
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あれ? リサが止まろうとしない |
そのまま まっすぐドアへ向かって走っていくよ |
あっ! 大変! 外へ飛び出してしまった!! |
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・・・・・・飛び出してみたのは 良いのだけれど |
リサは この街をまだ良く知らない |
この小路を歩けば どの通りに出るのか |
シンイチの通っている学校は どっちに行けばあるのだろう |
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・・・・・リサは不安になってきた |
右も左も分からない 街の裏通りをトコトコと歩いていく |
時折、上を見上げてみる 洗濯物を干しているおばさん |
その向こうに カンパーニャの青い空があった |
*カンパーニャ (Campania):イタリア南部の州。州都はナポリ |
突然目の前が明るくなった |
どうやら リサは大きな通りに出たようだ |
ざわついている 大きな車が走っている たくさん・・たくさん |
人もたくさん歩いている 左から右から たくさん・・たくさん |
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たくさんの人 たくさんの車 たくさんの・・大きな音 |
リサは 心細くなった 耳鳴りがして頭がクラクラした |
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リサは 訳もわからず歩いた |
いくつか 角を曲がった 車の急ブレーキも2度聞いた |
何度か 掴もうとする手から逃げた |
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お日様が高くなる頃 リサは陽の良くあたる 小さな広場にいた |
近くに ピッツェリアかリストランテがあるみたい |
どこからか オリーブオイルの焼ける匂いがしてくる |
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そういえば・・・ |
お家の朝ご飯を 食べてこないままだった |
随分と街を歩き回って もう腹ぺこだ |
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リサは 匂いのする小路裏へと歩き出す |
と リサの目に1匹の猫が映った |
軒下に ポツンと黒い猫 こちらをまっすぐに見ている |
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ふと見ると その脇にも 灰色のくたびれた感じの猫がいる |
それだけではなく よく見れば小路裏のあちこちに |
たくさんの猫たちが 点々と座っていた |
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黒い猫は あはは・・・アルベルトだったんだね |
アルベルトは 背筋をピンと伸ばして |
小路裏に迷い込んできた小さなコーギーを ジッと見ている |
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ペタリ・・・ |
リサは腹ぺこなのと 怖いのとでその場に伏せてしまった |
しばらく ジッとリサを見ていたアルベルトは |
やがてムクリと腰を上げると リサの方へ近づいてくる |
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リサの鼻先まで来たアルベルトは 何を思ったのか |
急に左へ向きを変えて お店の方へ |
良い匂いのしてくる勝手口の前にちょこんと座った |
そして 『ニャアォゥ』と一つ 良い声で鳴いた |
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すると 見慣れた顔が勝手口から出てきた |
アルベルトを可愛がってくれている “マリオ”だね |
両手に大きな皿を持っているみたいだ |
*マリオ
(Mario):第2話参照のこと |
皿の上には 彩り鮮やかなサーモンのカルパッチョ |
カルパッチョの風景画のように 赤い色がとてもキレイだね |
*カルパッチョ (Vittore Carpaccio):16-16世紀のイタリアの画家 |
薄くそぎ切りにした サーモンと白身の魚 |
それにモッツァレラチーズも加えて 皿に彩りよく並べる |
バジルを散らして オリーブオイルをたっぷりとかける |
レモンにワサビ そして仕上げにバジルの葉をトッピング |
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皿を置いて戻ろうとするマリオに |
アルベルトは もう一度『ニャアォゥ』と呼びかける |
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ほどなくして マリオが小さな器になにやら入れて出てきた |
器の中身は 鶏肉入りのリゾットみたいだね |
マリオは それをリサの前に優しく置いて お店に戻っていった |
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もうお腹がペコペコだったリサは |
目の前の器に 夢中になって飛びついた |
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夕方頃 シンイチが迎えにやってきた |
授業が終わったあとで リサのことを知ったみたいだ |
どうやら マリオが家に連絡してくれたらしいね |
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駆けつけたシンイチが見たのは・・・・ |
数匹の猫に混じって 仲良くうたた寝するリサだった |
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こうして・・・ |
ちっちゃなコーギーの ちっちゃな大冒険は終わりました |
今頃 リサはシンイチ少年のそばで |
気持ちよさそうに 寝息をたてていることでしょう |
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南部の街は もう夏の盛りです |
きっと アルベルトは 明日も |
日陰を見つけては どこかでお昼寝中 |
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おしまい
猫の庭で。続きは、次のお話で。
編集後記
やっと3作目の完成っす☆いやぁ、長かった(笑)
今回のゲストは、ウェルシュ・コーギーのリサでした。
今回の料理は、サーモンと白身魚のカルパッチョです。
ベネツィアの画家、ヴィットーレ・カルパッチョが好み、
とても鮮やかな赤を多用した彼の絵にちなんで
この料理にはカルパッチョの名前がつけられました。
(本来は薄切りにした牛肉を、パルメザンチーズの薄切り
と共に、オリーブオイルをかけて生で食べます)
2002/01/06 Masato HIGA
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