弾けないコード
今夜は・・・曲が書けそうもない |
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月はぼんやり もやの向こうで遊んでいる |
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駄目だ・・・ |
やっぱり 今夜は曲が書けそうもない |
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諦めてピックを放り ギターを傍らに除けた |
飲み過ぎたビールのせいか・・・ |
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テーブルには書きかけの新曲. |
俺は譜面との睨めっこに負けちまってる |
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TVでは 深夜のバラエティ・プログラム |
俺は 笑いにも退屈してアクビを始める |
オマエが俺の部屋に押し掛けてくるのは |
大抵は 決まってそんなときだ |
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「ねー拓実ぃ どうしたら良いかなー?」 |
オマエはそう言って 頬杖 |
冷蔵庫の前にしゃがみ込んで ひとつ大きくため息 |
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ジャージ姿で ぺたりとフロアに座るオマエ |
なんだよ 女っ気無いんだな俺の前だと |
「まあた どっかのオトコに惚れたのかよ?」 |
「“また”っていうなー! “また”って!」 |
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「めちゃカッコ良いぞ 拓実も見たら惚れるな」 |
バカ言ってる オトコの俺がなんで惚れるかよ |
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今度の相手は 湾岸沿いのバールでバイトしてて |
歳は2つ下 どうやらまだ学生らしい |
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「どーせもう何度も通って 話とかもしてるんだろ?」 |
オマエは声に出さずに 頭だけを動かして見せる |
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「でも 自分からは 誘ったりとか出来ない?」 |
また 黙って頷く |
「かーっ! 結局また“告白られ待ち”かよ」 |
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オマエは恋に少しばかり臆病なんだよな |
そして 照れ屋でもある |
誰かのことを良いなって思っていても |
結局は 自分から「好き」だとかって言ったりしない |
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「あーもぅ! どうやったらアタシの魅力に気付くんだろー」 |
オマエは そういうと小さなアクビを噛み殺す |
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「ちょ・・・オマエ 寝るなよ? ちゃんと帰れよな」 |
「なーにぃ? こんな時間に一人で外へ出すわけー?」 |
「ンだよ?」 |
「危ないでしょーがぁ」 |
ここに泊まってくのは 危なくねえのか? |
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「良〜いじゃん アイツを振り向かせる方法 考えてよー」 |
言いながら 缶ビールを開けるオマエ |
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・・・・それにしても |
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この頃 オマエはちょっとずつキレイになってくよな |
誰かに 恋するたび 誰かを好きになるたびに |
そいつを振り向かせようと 頑張るから |
そうやって オマエは恋をするたびに 自分を磨いていく |
誰かを好きになるたびに オンナを磨いていっちまう |
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いつからだろうな |
俺が こんな風にオマエを見るようになったのは |
考えてみれば 俺はオマエをずっと見てきたんだ |
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ずっと ずっとオマエを見てきて・・・ |
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俺は 幼なじみの目の前に膝をつき |
缶ビールを取り上げて ひとくち グイと呷ると |
見慣れた顔を 言葉もなくただ見つめる |
「・・・?」 |
オマエはなにが起こってるの? という顔をしてる |
「今夜は オマエが振り向けよ・・・」」 |
ハッとして 顔を赤らめるオマエ |
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月はまだ 夜空でぼんやりしている |
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・・・・なんて |
思い切ったことも 出来るわけもなく |
オマエは寝息を立てて ソファの上 |
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やっぱり今日は 曲を書けそうもないな・・・ |
Update 2001/11/13
2001 Masato HIGA / HIGA Planning.
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