キンモクセイの魔法に誘われて

「大学時代・・」
車を走らせながら日向は話し始めた。
「君が本を読んでいる姿を見るのが好きだった」
快はそれを聞いて日向の顔を見た。
「いつもひとりで図書館にいて、声をかけられなかった。と言うよりは声をかけて君の本を読んでいる姿の邪魔はしたくなかった。」
「聖士お前は・・・」
「私が図書館の司書になったのは君の影響もあったね。君のその横顔にいつかキスしたいと思っていた。やっと願いが叶った訳だ。」
そう言って微笑んだ。
日向の切ない思いは届かなかった。

「どうしたんだい、お兄ちゃん?」
季節はずれの避暑地は人が少ない。
駅のベンチに座って途方に暮れていると、
隣に座っていた老婆に声を掛けられた。
「いえ、別に・・・」
ここへは昔、子供の頃に秀の家族と
一緒にキャンプに来たことがあった。
夏の間は観光客で賑わっているが、
秋が終わりもうすく雪の季節になろうという
この時期には駅にも人は少ない。
「観光かい?行く宛はあるのかい?」
親切そうな老婆はニコニコと笑いかけていた。
彬生は少しとまどいながら首を横に振った。
それじゃあと腰をあげると老婆は
「うちにおいで。どうせひとりだから」
とやっと立ち上がった。
彬生は何も言わずに頷くと微笑み返していた。
「名前は?笑った方がかわいいよお兄ちゃん」
「彬生です」
老婆は駅を背に歩き出した。
彬生も後をついて歩き出した。


日向は快を乗せた車を新興住宅地にある1件の家の前で止めた。
とまどっていた快に対して無言のまま車を降りると玄関の呼び鈴を押した。
ピンポーン
慌てて快も車を降りると家の表札を見た。
「おかもと・・・あっ!秀くん?」
しばらくして中からドアが開いた。
「日向・・さん?」
秀は驚きを隠せずに目を丸くした。
横から快が日向をどかして口を挟んだ。
「彬生君がいないらしいが、
君は何か知っているのか?」
いきなり話し出す快に秀は部屋の
中を振り返ると外に出てドアを閉めた。
「妹がいるので、大声を出さないと
約束してください。そうすれば部屋の中に案内します」
快も日向も黙って頷いた。
快は秀の様子を見て、彼が彬生の失踪に関して何かを知っていると思った。
秀はまたドアを開けると奥から声がした。
「お兄ちゃん誰?」
「ああ、お兄ちゃんの知り合いだから、お前はいいよ」
かわいらしい女の子の声に秀は優しく返事をした。
部屋に通された日向はきょろきょろと部屋を見回して、
「へぇ〜これが秀クンの家なんだ」
などとのんきに振る舞っていたが、快は渋い顔を隠せなかった。
快は黙って秀を見つめて言葉を待った。
しばらく黙ったまま秀はうつむいていた。
「彬生はどこだ?!」
快は待ちきれずに訪ねた。
「オレのせいかもしれない・・・」
秀はうつむいたまま両手で拳を握りしめていた。
「誰のせいでもいいから、彬生君は」
日向は二人の間に話って入ったが、秀は続けた。
「オレが彬生にあんなことさえしなければ!」
その言葉で快は秀の胸ぐらにつかみかかっていた。
「何をした!!」
快は秀にくってかかった。
「落ち着け!快!!」
日向も快の手を秀から離そうとしていた。
秀はやっと快の目を見た。
「オレは彬生が好きだ。お前なんかよりもずっと前から・・・」
挑戦的な目で快を見つめた。
「でも、彬生はお前を・・・」
その言葉を聞いた快は掴んでいた手を秀から離した。
日向も秀の顔を見つめていた。
秀は続けた。
「あいつガキの頃可愛かったんだけどな。
お前の知らない彬生は無邪気で、無防備でキラキラしていた・・・」
その言葉に快と日向は黙ったまま秀を見つめている。
「ところがあいつ恋をしたんだ。相手は宇宙世界っていう奴が書いている小説だった」
「え?秀クン何を言っているんだ?」
快が首を傾げると秀は
『ハハッ』と声をあげて笑った。
そのまま顔を隠している。
しかし、顎をしずくがつたっていた。
(涙?!)
日向は口を開いた。
「彬生君は快が小説家だと知らなくても快の事が好きだった。
でも、彬生君の好きな小説家だと知り、もっと好きになったに違いないよね」
「俺は気づいていた。あなたがこの小説を書いている人何じゃないかと・・・」
秀は顔をふせたまま話を続けた。
「だからどうしても彬生が気づく前に、
彬生の気持ちを俺に向かせたかった
だけなのに、あいつ俺を誘うから・・・」
また快は秀の腕を掴んで隠されていた顔を見た。
「・・・・」
快はその瞳を覗き込んで言葉を失っていた。
秀の瞳には涙と一緒に悲しみの色が映し出されていたから・・・。
「とにかく・・今は」
やるせない場面に遭遇してしまった日向は言葉をかけた。
「ここか?!」
突然日向は棚の上の写真立てに目が止まった。
その言葉に2人も顔が上がった。
その写真には幼い頃の秀と彬生が家族と一緒に写っていた。
「これは子供の頃家族でキャンプした場所。
 まさかこんな時期に彬生はそんなところに?!」
秀も慌てて写真を手に取ってそう言った。
「たとえ1%の可能性でも探さないよりもましだ。聖士、車を頼む。」
快は立ち上がって、日向を促した。
「はいはい。ご主人様」
「こんな時に嫌みかお前は」
立ち上がりながらつい口に出してしまったと日向は笑った。
立ち上がろうとする秀の肩を押さえながら
「君は妹さんがいるだろ。私が代わりに探してくるから・・・」
と日向は付け加えた。
「でも・・・」
それでも立ち上がろうとする秀を今度は快が制した。
「もしも、他から連絡が入るかもしれない。
その場合は君しかいない訳だから」
すると秀も渋々頷いた。
「本当はついていてあげたいけど、快も心配なんでね」
日向は秀に微笑んだ。
快は既に部屋を出て歩き出していた。
「彬生のことお願いします」
秀は後ろ姿の快と日向に頭を下げた。
その言葉に快は無言で頷くと出て行った。
日向も後ろから秀に手を振って出ていった。
バタン・・・
秀は閉まったドアを、ただ見つめていた。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*

彬生は部屋にに入ると、座布団に座った。
「他には誰もいないから、好きに使っていいよ」
老婆はそう言って部屋へと案内してくれた。
「ここだよ」
駅から歩いて10分程して老婆は立ち止まった。
そこはとても広い敷地だった。
周りには樹木があり、萩の花が咲いていた。
建物へと続く小道の両脇には花が植えてあった。
しかし、この季節には1輪の花も咲いていない。
その道の一番奥には風流な和風の建物があった。
普通の一軒家とばかり思っていたが、そこは営業していない旅館のようだった。
「少し前まで旅館をやっていたのだけれど」
今はもう営業はしていないと老婆は微笑んだ。
「あの部屋を好きに使っていいよ」
と2階の角部屋を指さした。
「あの、でもオレお金は・・・」
「いいんだよ。もう旅館じゃないから。それに訪ねてくる人も今は少ないしね。」
彬生が困っていると老婆はそう言ってくれた。
人の親切が心にしみてくる。
「後で食事の用意が出来たら呼んであげるから、ゆっくり休むといいよ」
「俺、手伝います」
彬生が申し出ると老婆は首を横に振って
「大丈夫、食事と風呂だけは以前の使用人だった夫婦が
面倒を見てくれているから。私も何もしないんだよ」
そう言ってくれたのだった。

部屋の中は和風で、掛け軸が掛かっていた。
その掛け軸に描かれている赤い椿の花が
殺風景な部屋を明るくしていた。
彬生はふと、手荷物の中の
本に目が止まった。
その瞬間、胸の奥がズキンと痛んだ。
「快なんで・・・」
本を見つめて呟いた。
この本の作家が快だったなんて
気づかなかった。
今思うと知らなかったとはいえ、恥ずかしい会話を
たくさんしていた。
その本を座卓に置くと、携帯電話を取り出した。
そして切っていた電源を入れた。
そこには着信履歴とメールと留守番電話がたくさん表示された。
それを見てクスッと笑ってしまった。
「秀ったら、オレは男だって言っているのに・・・フフッ」
そのまま不在着信の番号を押した。
「彬生?!」
呼び出し音がなる前に秀は電話に出た。
よほど待っていたに違いない。
少しだけほっとした。
「秀。オレ。」
「良かった。今どこ?」
「なんか旅館・・じゃなくて昔旅館だったところかな?」
「え?!誘拐されたの?!」
秀の驚いた声を聞いてプッと吹き出す。
「バカ!オレは男だって何度言わせる気だ!」
「お前は可愛いからだと、お前こそ何度も言わせやがって」
秀の声が急に優しくなる。
「良かった無事で・・・・」
恐らく泣いているのだろう少し声が震えて聞こえる。
「快さんがむかえに行った」
秀の言った“快”という言葉に体が反応する。
胸の奥がまた痛くなった。
「ここはわからないよ」
電話を持つ手がふるえている。
「キャンプしたよな」
「えっ?!」
「だから、あのキャンプ場があったところじゃないの?彬生」
秀は気付いていたのかとため息が出る。
「さすがだね秀」
「最初に気付いたのは日向さんだったけどね」
秀はあっさり敗北を認めた。
「そうか、快がここに来るんだ」
(良かった)という言葉は秀には言えなかった。そのまま電話を切った。
笑いながら窓の外を眺めると目からは涙が流れていた。
誰にも逢いたくなくてこんな所まで来てしまった。
それなのに結局皆に心配をかけていた。
逆に帰るきっかけを失っていた自分を
快が迎えに来てくれる。
「バカ・・・」
何のためにここまで来たのかわからなかった。
「いっそのこと、隠れてしまおうか・・・」
クスッと笑いながら外を眺めると
白いものがチラチラと降ってきていた。
「雪か・・・」
吐き出すように呟いた。

「雪だな」
「ああ、雪だ」
快は車の助手席で話しかける訳でもなく呟くと、
隣で運転をしている日向も繰り返す。
山を越えるためのトンネルをいくつか抜けて走っていた。
最後に入ったトンネルを抜けると、
チラチラと雪が降りてきていた。
「もうこんな季節なんだな」
「つい昨日までキンモクセイの香りがしていたと思っていたのにな」
快が窓の外を見つめたままそう言うと、日向も頷いた。
「覚えているか?学生の時に大雪が降って帰れなくなったことがあったな」
と日向は懐かしそうに続けた。
「ああ。夢中で調べ物をしていたら、
時間が経つのを忘れて、
お前に言われて気付いたら外は別世界だった。
都会でも雪が降ると初めて気付かされた」
快も懐かしそうに微笑んだ。
「結局サークルの部室に行ってストーブで
暖めたけど、寒くて、快に抱きついた」
「うっ!お前そんな下心があったとは知らない俺は、
寒さをしのぐために一晩中お前と抱き合って寝ていた。
もしや、俺を騙したのか?!」
快はそう言って日向から離れると、日向は笑った。
「騙したとかそういうことじゃないが。
楽しかったよな、あの頃は・・・でも同時に苦しかった」
と日向は真顔になると
「彬生クンはどこにいるのかな。まずは駅で聞いてみるか」
「ああ」
快も真顔で頷いた。
雪が降り出して間もないが辺りはみるみる白くなっていった。

いつの間にか2人は小さな木造の建物の前に着いた。
そこがどうやら駅のようだ。
辺りはすっかり白くなっていた。
「こんなところにお前と2人でいるっていうのに、動機が間違いだったら良かったな」
日向は車を降りると建物に向かって歩き出した。
「悪かったな。お前に付きあわせて。もう帰ってもかまわないけど、どうする?」
快も一緒に歩き出しながら日向に訪ねた。
「何を今更。『邪魔だ帰れ!』と言われるかと思ったな。
けど、今のところまだここにいることがわかっている訳でもないしな」
日向は両手を広げると軽く首を横に振った。
「ねぇ快、もしも彬生君がどこかに隠れて出てこなかったら、諦めて帰る?」
快は立ち止まって日向の顔を見つめていたが、
程なくしてまた歩き出しながら口を開いた。
「彬生がどこに隠れても、必ず探し出してみせるよ。秀君とも約束したしね。」
ヒューという口笛を吹くと日向は微笑んだ。
「すごい自信だね」
木造の建物に着くとタイミングよく
日向の携帯電話の着信音が鳴った。
「あれ?噂をするとその秀君からだね・・・はい、もしもし・・そうだけど」
そう言って駅の木でできた古いベンチに座ると電話に出た。
そのまましばらく話を聞いていたが、段々とうれしそうな顔になった。
「フーンそうなんだ。それで?・・・・わかった。
向かってみるよ。それじゃあまた後で連絡するから」
電話を切った日向はニッコリと笑った。

「彬生君見つけたよ」
それを聞いた快は日向の両腕を掴んだ。
「本当か?今どこに?!」
「おい、落ち着けよ。彬生君はこの近くの旅館をやっていた家にいるらしい」
快は日向から手を離すと歩き出した。
「行こう聖士。歩いて行くのか?」
「いや、少しでも早い方がいいだろう。車で行こう」
日向も立ち上がった。


窓から目が離せなかった。
一瞬でも目を離した隙に、快が来てしまうような気がした。
窓の外を眺めると、窓ガラスを雪の結晶が舞を舞うようにヒラヒラと降りて来る。
そして窓の縁には少しずつ積もった雪が彬生の視界を邪魔していた。
彬生は窓辺にもたれかかって息を吐いた。
程なくして雪で白くなった庭に一台の赤い車が止まった。
そこから降りる2人の男の顔は彬生の良く知っている顔だった。
彬生は白く曇った窓ガラスを開けた。
「快さん!」
その声を聞いた男は腕で雪をよけながら彬生の方を見上げた。
一緒に降りた日向はその姿を確認すると建物の入口へと向かった。
快はまだ窓を見つめている。
彬生は窓を離れて走り出した。
そのまま部屋を出ると階段まで一気に走った。
快も彬生が窓から離れるのを確認すると、
建物の入口へと急いだ。
玄関で老婆に挨拶をしている日向の横を通り過ぎた。
「らしくないね」
日向は快を冷やかした。
快は全く聞こえていない様子で、
そのまま階段の下へとたどり着いた。
階段から下りて来る彬生に
快は両手を広げて下で待ちかまえている。
彬生は階段を駆け下りてくるが
全ての階段を下りずに途中で
快の腕をめがけて飛んでいた。
「まぁ!」
「ヒュー」
玄関でその光景を見つめていた老婆は思わず声を出した。
日向も口笛を吹いた。
快の腕はそのままきついくらい彬生を抱きしめた。その腕から彼の気持ちが痛いほど伝わってくる。
「ゴメン・・・なさい」
彬生も快の首に腕をまわして、しっかりとしがみついた。
自然と目からは涙が流れてくる。
その目尻を柔らかく温かいものが塞いでくる。
快の唇だった。
彼の唇は彬生の瞼から徐々に唇へと移動する。
待ちきれないように彬生もそれに答えた。
それを見ていた老婆は更に目を丸くした。
日向はそんな老婆の肩に両手をかけて部屋へと移動していく。
その時に快の耳元に何か耳打ちをしていた。
熱い再会を果たした快と彬生は日向の耳打ちでキスを中断して、階段を昇りはじめた。
そのまま彬生が通された部屋へと向かった。
部屋に入ると無言のまま2人は見つめ合っていた。
そのままどちらからともなくもう一度唇を求めた。
快の舌が彬生の唇をなぞり、その舌を彬生の舌が絡める。そうしながら舌と舌を絡め合っていくうち快の手は彬生のシャツをたくし上げている。
「んっ・・ふっ・・・」
いきなり冷たい快の指先が体に触れて
体がびくんと反応する。
快の指が彬生の胸の尖った部分を摘んだり、指の腹で擦ったりして弄んだ。
「あ、うっ」
快のもう片方の手はズボンの中へと滑り込む。
彬生の体がもう一度反応する。
それでも快は彬生の唇を解放しない。
「ん・・ふぁ」
その手はキスと乳首に反応してとろとろと先走りをたらした中心の部分を擦って刺激する。
「あっ、あ、だめ」
あまり弄られるとすぐに達してしまいそうだ。
「彬生もっとよく顔を見せて」
彬生は快の言葉に赤面してしまう。
余計に顔を背けたくなり下を向くと、快は彬生の乳首を吸い上げた。
「あっ、・ふっ・・」
今まで痛いほどの刺激を加えられていた部分に柔らかい温かさが与えられて、新たな快感となり体を刺激した。
そのまま上体が仰け反る。
快はまた彬生の唇についばむようなキスをくれた。
今度は中心の部分にその口元が移動する。
「あっ、だめっ!」
快が今度は中心を思いっきり吸い上げると
彬生は快の頭を離そうと掴んでいる。
それでも快は離れずに舌で彬生自身を刺激する。
「ああ、ああっ!」
彬生は快の口の中で達していた。
「あっ、ごめんなさい。おれ」
「彬生のは甘いよ。」
快のそんなセリフに赤面していた。
「えっ?!あっ」
快はそのまま彬生の足を持ち上げると蕾の部分を指でついた。
「快、俺の中を快で満たして・・・」
快のその顔を見ると愛しさでいっぱいになりついそんな恥ずかしいことを口走っていた。
「可愛いな彬生」
快はそう言うと彬生にキスをした。
そしてさんざん舌を絡ませてから、蕾部分を舐めはじめた。
舐めながら指先を蕾の部分に入れてきた。
「あ、うっ」
鈍い痛みが走る。
そのままその部分をならすように指を動かす。
「あああっ」
「彬生、そんなに締め付けると・・・」
快の息も次第に弾んでいる。
あまり余裕が感じられない。
「は、、やく」
彬生は快に両手を広げるとそう誘った。
「いいの?いくよ」
指を抜くと快は自分のを押しあてた。
その堅さと圧迫感が彬生の蕾に



「せっかくだから温泉ぐらい入っていこう」
「ここはもう旅館じゃないから迷惑なんじゃ・・」
「大丈夫。さっき婆さんと話はつけたから」
快の提案に彬生は老婆を気遣ったが、日向はもう手配済みらしい。
「あなたたちは一体何をしに来たのか」
彬生は温泉に行こうとしている快と日向に呆れ顔で呟く。
「人に心配をかけたのは誰?」
日向にそう言われると返す言葉もない。
彬生は黙ってしまった。

「気持ちいいなぁ〜」
「早いなお前!」
一足先に露天風呂につかった日向に対して、
丁寧に脱いだ浴衣をたたむ快が言った。
「相変わらずだな〜早く来いよ」
「おう今行く・・・ってお前大丈夫だろうな」
露天風呂に入りながら快は日向を見た。
「バーカ!何もしやしねーよ」
しかし小声で
「ったく言うんじゃなかった」
「何か言ったか?」
「別に。ただ、彬生君は何で入らねーのかなって思っただけ」
としらばくれた。
「ああ。お前には見せられないからな」
快のその言葉に何故か赤面する日向。
もうそれ以上は聞くのはよそうと心に誓った。
だが、快は聞いてもいないのに自ら話し出すのだった。
「ちょっと聞いてくれよ。」
すかさず日向は
「やだよ」
と言うが
「ま、そういわずに」
と強引に聞かされるハメになった日向は
雪の露天風呂で良かったと心から感謝した。
というのも快は日向を開放しそうになかったからだ。
この男は普段は無口なくせに、学生時代から小説など
自分の好きなことを語り出すと一晩中でも話す癖があったのである。

「それにしても、2人とも遅すぎないか?」
秀も到着して、適度な時間が過ぎたが
快と日向は風呂に行ったまま帰ってこない。
秀は不審に思い、2人を疑いだした。
しかし、彬生はニッコリ微笑んだ。
「快さんって話し出すと止まらないから・・・
日向さんは快さんにとってたったひとりの親友だしね。」
秀もクスッと笑うと彬生の額に自分の額をつけた
「俺らもずっと親友でいられるかな?」
「・・・・」
「えっ?やっぱ俺の勝手言い分かな」
黙った彬生に秀はまじめな顔になった。

すると、彬生はプッ!と吹き出した。
「当然だろ!ずっと親友だよ」
それを聞いた秀は
「この〜!」
と彬生の首に腕を回した。
するとまじめな顔になった。
「親友はキスしちゃだめ?」
「いいよ。親友のキスなら」
彬生は微笑んだ。
「サンキュー」
秀はそういうと彬生の顎にてをかけた。
そのまま軽く彬生に口づけをした。
「さて、俺らも風呂に行って日向さんを救出してあげねーとな。」
そう言って立ち上がったのはいつもの秀だった。
彬生はうれしかった。
「うん」
2人はふざけながら露天風呂へと向かうのだった。

<END>