展望台
「何か見えるの?」
先生に勧められるままに望遠鏡を覗いていた僕に、その少女は唐突に話しかけてきた。
「ねえ、何か見えるの?」
ここは展望台で。僕は望遠鏡を覗いていて。
「“何か”って何?」
「何かは何か、だよ。何か見えるの?」
少し迷った後、僕はもう一度望遠鏡を覗き込んだ。
そして、ありのままを伝える。
「・・・何も見えないよ」
一歩後ろに引き、場所を開けるとその少女も望遠鏡を覗き込んだ。
「君には何か見える?」
そして少女は笑って答える。
「ううん。何も見えないよ」
2010.8.29