孤独
身体の底から湧きあがる痛みに悶える彼女を、僕はただ見守る。
時折、浅く、早い呼吸の合間にうめき声のようなものが混じる。
彼女は体を“く”の字に曲げて、苦しみを逃がすかのように何度も拳を壁に打ち付ける。
僕は彼女のものである鞄を抱え、その様子をただただ見つめる。
浅く早い呼吸
額に浮いた脂汗
壁に打ち付ける拳
固く閉じられた双眸
狭い空間には僕と、床の上で悶え苦しむ彼女しかいない。
暫く彼女はそうして苦しんでいたが、40分もたつと次第に痛みも治まってきたのか壁に拳を打ちつけることをしなくなった。
さらに15分ほど経過すると小刻みだった呼吸がだんだんと平静を取り戻し、10分も経つと彼女はすっかりいつも道理の笑みを浮かべていた。
僕は寝転がる彼女のそばに鞄を置き、彼女の顔を覗き込んだ。
額に残る汗の跡と、目じりに滲んだ涙だけが、先程の苦しみが現実に彼女を襲ったのだと証明する唯一のものだ。
彼女は覗き込んだ僕の前髪を右手で軽く払うとにこりと笑った。
「本当に苦しいときには、誰も助けてくれないし、誰にもどうすることもできないんだよ」